吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』は、満州事変(1931年勃発)の後、日本が軍国化していく時代に書かれたものです。軍国化していく日本で生きていかざるえない少年少女に向けて、「じっくりと自分の頭で物事を考える大人になって、希望をもって生きて欲しい」というメッセージを残したのだと私は考えています。
人間は人間同士、それこそ君のいう「人間の関係、あみの目の法則」で、びっしりとつながり、おたがいに切っても切れない関係をもっていながら、しかも大部分がおたがいにあかの他人だということだ。そして、このあみの目の中で得な位置にいる人と、損な立場にいる人との区別があるということだ。
これは気がついて考えてみると、たしかにへんなことにちがいない。へんなことにちがいないけれど、コベル君、これが争えない今日の真実なのだよ。君が「人間分子」といったように、人間と人間との関係の中には、まだ物質のつながりのような関係が残っていて、ほんとうにすみずみまでは、人間らしいあいだがらになっていないのだ。
お金をめぐっての争い、商売の争いは一日も絶えないし、国と国のあいだでさえ、利害が衝突すれば武力によって争う。こういうことがまだなくなっていないのだ。「それはまちがっている。」と、君はいうにちがいない。そうだ、たしかにまちがっている。だが、それならば、ほんとうに人間らしい関係とは、どんな関係だろう。コベル君、ひとつよく考えてみたまえ。
2017年発行のマンガ版の冒頭部分に以下のような紹介があります。
この物語は、1937年に出版され、今もなお多くの人に読み継がれている。歴史的名著といわれる小説・・・。「君たちはどう生きるか」をはじめてマンガとして描きおろしたものです。小説の出版から80年経った今も、あらゆる世代の人たちが生き方の指針となる言葉を物語の中から見出しています。この本を読み終えたとき、あなたの中にいるコペル君とおじさんは、どんな言葉を投げかけてくるでしょうか。
2年前2022年1月に大学の理科研究室で、中等教育の理科の教員養成の仕事をしていましたが、最終講義として、学生全員に『君たちはどう生きるか』をプレゼントして、「私はどう生きるか」というテーマでプレゼンをしてもらいました。中には、「大学の講義で一番楽しかった」といってくれた学生もいました。
「自分がどう生きるか」というのは、生涯にわたっての命題ではないでしょうか。私は自分が存在する究極の目的を「社会のために少しでも役立つ」として、それをを念頭において高等学校や大学で教員といての仕事をしてきました。少しでも役立つことができかどうか不安ですが、精一杯挑戦してきたと自分勝手ですが思っています。