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『自分を生きる教育を求めて』大田堯から

2023年1月25日

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大田堯著『自分を生きる教育を求めて』p24-28
 学問にとってたいせつなのは、知識のほかに、そういう知識を獲得するための探求の方法と過程、そして何よりも学問すること、探求することの喜び、だいごみでありまして、学問は、いわば世界を認識することへの恋心にその根をもつというぺきであります。学問上の知識や方法だけでなく、学問することの実感、世界認識への恋心を、身体のなかに入れておくということであります。
 諸君がこの大学でどの程度その恋心を身につけられたか、私にはまだよくわかりません。ことしになって、「探求」という一つのサークルの諸君と話し合いました。そのなかで、細野君と石堂君とは四年生だったはずだから、このなかのどこかにいるでしょう。探求は、私の著作の題名『教育の探究』の一部でもありまして、私のすきなことばの一つです。
 考えてみると人間は、自分の責任で人生を探求するために生まれたようなものであります。イタリアルネサンスのピコ・デラ/・ミランドは、つぎのように言っています。

 「偉大な創造主は、人間の本性をこういうものだと確定しないままにつくり出した。そうして、神は人間にこう告げた。(お前は......自由意志にもとづいて自分の本性を定めよ)」

 人間性とは、その人の責任においてつくり出されるものであります。ですから、学問だけが探求ではありません。人生百般すべて探求であります。なかでも恋愛は、もっとも真剣でおそらくもっともみのり多い人生探求の一つであります。それは自分の内面のもっとも深いところから発する人生探求そのものであるから、愛せられることに満足するようではいけません。それは恋愛の名にも値しません。みずからすすんで選んで愛することのできる、つまり、積極的な人生探求そのものであるのです。
 恋愛は個別的偶然的ですが、学問は計画的組織的なものであり、すべての人びとか一定の方法によって人生探求の実感を獲得するのに好都合なものであります。学問研究は恋愛とともに、青年期にもっともふさわしい人生探求であり、諸君はそれに恵まれた人たちであります。
 諸君の多くは教師になられるのでありますが、その恵まれて獲得した学問探求、人生探求の実感を子どもたちに伝えてほしいと思います。また、そうでない諸君も、職場や家庭のなかにその精神を生かしてほしいと思います。
 子どもたちは未熟ではありますが、それだけに本来探求的なのであります。天性、生まれ落ちたときから弱いヒトの子は、人間になるために、じつに活発に探求しながら、選びながら発達しています。子どもたちの眼の輝きは、主としてその探求欲、探険欲によるのであります。この学問をすることの実感は、おとなにとっては、まさにその子ども心をとりもどし、つねに青年でありつづけ、活気ある人間でありつづけるために必要であります。また、子どもや若ものにとっては、この探求によって生涯にわたる人間的活力の持続と発展の方法を獲得することになるのであります。人間は探求しているかぎり、問題を心にもっているかぎり、生きており、生きがよく、眼が美しいのです。教師になる諸君は、さいわい、目のまえで生きて育つ子どもたちとともに探求してください。子どもたちに恵まれている豊かな探求欲にのって、諸君自身の探求欲を発展させてください。
 こうした人間的活力の源泉ともいうぺき学問的真理・真実の追究も、現実の社会では決してなまやさしいものではありません。その点、大学はある程度庇護された社会です。いろいろなこころみが許され、少々まちがっても寛容に認められる社会です。しかし、これから諸君が出むく実社会はなかなかそうはいきません。少しばかりでも変わった考えに対してはひどくきびしく、まちがいに対しても寛容ではありません。そこは、「探求」が、「自由な探求」が試練を受けるところです。それどころか真理や真実の実現を好ましいものとしない力が、いたるところにはたらいています。利己的営利に走る人たち、さまざまの権力欲がはたらいています。国家もまたじつに強大な権力でありまして、その権力を持続するために、しばしば真理・真実をまげてきました。それをめぐつて、今日もじつにむずかしい問題が教育界には山積しています。
 諸君は、どのようなばあいでも、あくまで子どもが人間らしい人間に育つために、真理に学び、真実を探求すること、教育における真理探求の自由をいかなる力の介入からも守るために、誠実な努力をかたむけてほしいと思います。それが大学というところで学問をし、真理について学んできたものの、国民大衆に対する最大の義務であります。諸君は、事実、真理・真実の前にあくまで謙虚でなければなりませんが、これを犯すものに対してはきびしくかつ頑固に抵抗しなけれほなりません。諸君の真理探求の自由を守る良心が、子どもの発達を保障し、日本の民衆の平和な未来を保障するのであります。

 1989年発行の本の中で、大田堯が都留文科大学の学長をつとめたときの卒業生に向けてのメッセージで、「探究」の大切さを語っている。もちろん、これ以前にも語られていたはずで、探究は教育のキーワードであることは,今の社会においても変わっていないと思う。

  • 投稿者 akiyama : 15:25

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