アカハライモリは、これまで春から初夏に掛けての2-3ヶ月が繁殖期であると考えられてきた。ところが、秋にも、野外でたびたびイモリの交配行動を観察し、雄の婚姻食もが現れることも確認した。これまでの記録をみると、1931年には筒井が、1961年には岩澤が同様にイモリの交配行動を秋に観察しており、岩澤と石井(1990)は精巣の重量が9月~10月に最大になること、アンドロゲンの分泌が春と秋の2度、ピークに達することを明らかにしている。さらに浜口ら(2010)は、雄の脳におけるニューロステロイドの産生酵素遺伝子Cyp7Bの発現が秋に高まることから、秋における雄の交配行動を生理学的に支持している。このような背景から、アカハライモリでは交配が秋にも行われている可能性が十分に考えられる。一方、アメリカのイモリでも同様の秋交配が観察され調べられてきたが、雄の精子形成や雌の貯精のう内の精子の量は個体によって程度が異なことから、秋はあくまで偽繁殖期(false breeding season)であると解釈されていた(Gergits and Jaeger, 1990 ;Sever et a1., 1996 ;Sever,1997)。
今回、アカハライモリの交配期が秋にはすでに開始していることを明らかにした。これまで、日本の両生類では春を中心とした一続きの交配期が常識として信じられてきたが、正確には、秋に開始し、しかも冬期で一旦遮断され初夏まで続く長い交配期が存在するということを証明した。
では、イモリ属で、アカハライモリだけがこのように長い交配期間をもつのだろうか。イモリ属には合計10種存在し、そのうち8種は中国(いずれもアカハライモリより緯度が低い南部)に生息している。イモリ属の起源は中国にあり、日本のアカハライモリは最も緯度の高いところに適応していることになる。中国のイモリ属の仲間の交配期はおよそ3月から7月と報告されており、アカハライモリの近縁種で奄美、沖縄に生息するシリケンイモリの交配期は12月から5月とされている。よって、イモリ属の北限に進出したアカハライモリだけが、寒い冬が存在するがゆえに、冬で遮断された長い交配期をもつようになったと考えられる。
なお、同じイモリ属のシリケンイモリについては、繁殖期は12月から5月(田中、1994)とされてきたが、雄が12月から9月まで輸精管内に精液をもつことや、3月から10月まで輸卵管の中に卵をもつ雌が確認されている(花原、2017)。夏や秋にも繁殖行動があった可能性が高く、実際に那覇岳で産卵が確認されている(富永・山越、2011)。シリケンイモリの場合は、アカハライモリより低緯度に分布し、本島のような冬期の低温を経ないので、繁殖期が中国のイモリ属に近いと考えている。
【参考文献】Akiyama.S, Iwao.Y., Miura.I : Evidence for True Fall-mating in Japanese Newts Cynops Pyrrhogaster.Zoological Science 28:758-763(2011)