2006年度に文部科学省スーパーサイエンス(SSH)事業に採択され、10年間主任として、企画運営をしてきました。その前の段階に、以下の「西暦2000年に清心学園は何を提供できるか」を考えるためのプロジェクトがあり、リーダーとして運営し、最後に報告書を作成しました。しかしながら、校長交代で、報告書は生かされず眠ったままになっていました。
2005年4月に校長が交代し、機をみて「文科省に改革案を示して、可否を試したい」という直訴を承認していただき、2006年度のSSH事業に申請することできました。
文部科学省での面接審査を経て、なんとか採択され、2006年4月に教育プログラム開発の目玉として誕生したのが、「生命科学コース」です。
※以下は、その報告書(本文のみ)です。同じHPの「論文資料ダウンロード」からアンケートのデータ(グラフ)をみることができます。
アンケート「西暦2000年に清心学園は何を提供できるか」から将来を考える。
■はじめに
1995年7月から1997年8月、本校では、「清心中学校・清心女子高等学校の展望」を考えるプロジェクトが計画された。今回は、そのプロジェクトの中で実施されたアンケートを中心に、教育改革の方向についてまとめたい。
今回のプロジェクトまで、教育内容などについての本格的なアンケートが実施されたことはなかった。今までの教育活動の見直しとともに、学校教育の構成者である教職員・生徒・保護者の意見に耳を傾けることも必要と考え、計6回(本校教員対象4回、生徒対象4回、保護者対象2回)を実施した。教員対象アンケートの内容は、①生徒会・生徒指導②教育課程 ③宗教教育・広報・入試・進路④行事であった。アンケートの内容は、メンバー8人がテーマ別に分担して試案を作成し、会議で検討及び校正を加えて完成した。実施後は、2回に分けて夏季研修会(1996年8月30日と1997年8月29日)で結果を報告した。
今回のアンケートの目的は、本校での将来に役立てる目的でなされたものであり、内部資料としての性格を持っているので、公開されるものではないという考え方もありうる。しかしながら、現在の教育情勢を考えるて、一つ一つの学校を閉ざされた内部環境としてとらえ、非公開にするのではなく、社会と有機的につながったものととらえ、情報交換によって進歩、発展していくものと考える方が好ましいと判断した。
アンケートを実施してからすでに2年になろうとしている。この間に、教育課程では、1998年度入学生より、コース制が廃止され、1年次は共通カリキュラムで学習し、2年次から分かれる新たなコース制に移行した(それまでのコース制は、Ⅰ・Ⅱコースからなり、入学の時点で、異なる教育課程が設定されていた)。また、生徒用パソコンが1997年10月に24台、1998年4月に24台が導入され、1998年度から高等学校1年生で「国際情報」(1単位)というパソコンを使った授業が展開されている。また、1999年度から高等学校の教育内容を超えた内容の授業を受けることができる「発展科目」(中国語・生命・女性史などの科目から選択履修)が高等学校2年生で実施される。また、1999年度から、高等学校での研修旅行が沖縄になり、歴史文化・戦争平和・自然環境の3コース分けて実施される。制服や海外研修についても検討がすすんでいる。現状では、既に改革が進んでいる部分や検討する時期を逸した内容もあるが、この結果を色褪せぬ間に公開し、本校の教育への取り組みを理解していただき、ご協力をいただきたい。また、多くの学校が教育改革に取り組んでいる状況で多少なりとも役立てていただければと思う。
1.アンケートの実施方法
教師対象のアンケートは、職員会議の時間内に、1年間で4回実施した。生徒対象のアンケートは、入学直後の中学校1年生・高等学校1年生に(1996年5月)、卒業式直前の中学校3年生・高等学校3年生に(1997年2月)実施した。また、卒業する生徒の保護者については、卒業式直前の1997年2月に実施した。教師は、原則的に全員が参加する職員会議に回答し、生徒はホームルームで回答した。保護者には、生徒に配布した用紙に、自宅で記入していただき、回収した。
2.アンケート結果のまとめ方について
アンケートの結果については、一部例外はあるが、原則的には百分率(%)に直し、グラフで提示することにした。正確には実人数を付記すべきだが、全体の把握を主眼とし、統一性を保つために割愛した。
3.アンケートのまとめ
アンケートの項目は多肢にわたり、量も多いので、具体的には結果を直接参考にしていただきたい。ここでは、全体的に特徴となる事項について説明を加える程度にしたい。
①教師対象のアンケートについて
母集団の男女比はほぼ1:1である。高齢化が進んでおり、35歳以下が13%しかいない。生徒や保護者のアンケート結果と異なり、その指向性が明確ではないのが特徴である。指向性の矛盾点を以下に整理する。
(a)生徒指導はどうあるべきか。
「子どもの権利条約」や性教育に対する関心や意識は高い。「生徒から学ぶ姿勢」や「生徒との一体感が大切」、「規則を精選・簡素化すべきだ」という意見が最も多い。しかし一方で、例えば、生徒の性的な関係についての処置では「処分する必要がない」が3割しかなく、謹慎など何らかの処分を望んでいる。性的な関係を「子供の権利条約」の視点から見れば、個人の生き方の問題であり、このことのみで処分はできない。8割が「子どもの権利条約」について肯定的な評価をしているのだから、もし理解が正確であるならこのような回答にはならないはずである。「子どもの権利条約」は、一般的には、適用する場合に多くの問題が指摘されており、議論が多い条約なのである。教育の新しい流れに対して「建て前」を簡単に受け入れようとするが、それを肯定するにせよ、否定するにせよ、そこから派生する問題を正確に想定できないという傾向がある。
(b)特別活動を通して生徒とどうかかわるか。
教員になった動機は「教えることが好き」あるいは「子どもが好き」という回答を合計するとほぼ半数になる。「生徒と一体感を持ちたい」や「生徒から学ぶ」という姿勢を持っている人も多い結果になっている。しかし、生徒会関連行事への教員の参加は少なく、正規の教育課程ではないが、部活動の現状も活発とは言えない。その一番大きい原因として、授業や通学時間などの時間的な諸事情があげられているが、他校でも同様な事情があり、そうとは言い切れない面がある。例えば、生徒会が計画した送別会に、参加しなかった教員は4割で、そのうち7割は授業・出張であったとしているが、少しも空き時間が無かったとは考えにくい。3年生を見送ることよりも、他の日常的な業務を選択しているという、優先順位の問題なのである。また、参加したと答えている教員も6割いるが、生徒と同じように開始から終了まで参加しているわけではない。私の生徒会顧問の経験(1992~1996年)では、開始時間に教員が数名しか立ち会っていない年もあった。「生徒と一体感を持ちたい」が4割いるとは思えない。その他の生徒会行事においても、似たような傾向があったと記憶している。気持ちに行動が伴っていないという問題点があげられる。また、アンケート結果をまとめながら感じることは、教員のアンケートへの答え方は、どのように自分が考えているかではなく、最も教員として好ましいのはどれかという視点で選択する傾向があると思われる。
(c)教育課程・教育環境をどうするか。
コース制については、「多くの問題を残した」あるいは「どう評価していいかわからない」とで、7割になる。一方で、国公立大学現役合格者数が増加したのは、特進コース(Ⅱコース)の成果だとしている人が多い。進学実績を伸ばした面ではコース制を肯定しているが、教育課程の面では、単純に肯定できないといったところであろう。今後の方針については「存続そのものを含めて検討すべき」あるいは「廃止すべき」が、合わせて7割ある。
コース制は現時点では変更されている。従来のコース制では、入学の時点で、Ⅰコースを選択すると、理系へ進学できないということがあったが、1998年度入学生から高校2年次のコース選択導入で、この点については解決された。しかしながら、まだコース制については議論があり、検討しなければならない点は多い。合わせて週5日制、総合科目の導入など新たな問題もでてきている。
教育環境については、現状に満足しておらず、クラス人数、教諭数、設備の現状について不満を持っている。
(d) 進学指導をどうするか。
進学では「国立大学に進学できるように工夫すべき」が6割、「理系に進学できるように」が9割、「学力があるなら、清心女子大学より国立大学へ進学して欲しい」が半分以上というように、進学について充実させなければなならいという意見は多い。しかしながら、一方で、「一流大学合格を目的にした進学校を目指すべきだ」というのは7割が否定し、「進学実績を上げること自体を目指すのは抵抗がある」としている。進路指導の体制は、「進路指導部中心ではなく、学年団主導型がよい」を指向していることや、受験指導は「あくまで生徒自身の希望を尊重」としていることをあわせて考えると、学校全体で取り組むほど無理をするほどではないが、進学校ではあって欲しいということであろうか。
(e) 学校経営と教育理念をどう考えるか。
公立高校入試制度の変更で、「私学間の競争が激化し、自然淘汰される」ので、対策を講じなければならないと思っており、具体的には「県内の生徒を多く取るように対策をたてるべき」と8割が判断している。大半の教員が、学校経営にとって困難な時代の到来を予測している。しかしながら、この時期を、本校の教育理念を再確認する「よい機会である」という意見も半数以上ある。学校経営を一番にすえて危機回避をするのか(それが応急的な方法であれ、長期的な方法であれ)、教育理念を一番に据えて考えるのか、どちらにも向かうかはこれからの取り組み方によって決まるのではないだろうか。
清心小学校からの推薦入試についても、現状では「試験の点数で不合格者をだす」方式でをとっている。それを肯定する意見が6割ある。一方、人数枠を作るなどの方策を講じてでも、「小学校で推薦された生徒は全員合格」とした方がいいという人が2割いる。後者は、関連校との関係を考えた意見である。「成績の優秀な生徒が欲しい」「前向きに取り組んでくれる生徒が欲しい」など、入試には、いろいろな思惑が入りこむのはしかたがないことだろうが、入試方法は、その学校の教育理念や方針が見えてきやすい例であるから、対外的な意味も考えなければならない。
今回のアンケートほど質問の微細かつ多量なものはかつてなかったが、しかし、この10数年この種の議論がなされてきたと思う。優秀な生徒を確保し、進学実績や評価をあげるという現実的側面と、例えば、清心小学校から推薦されたが、優秀でない生徒に手をかけて育てるという理想的側面と。、ひょっとすると手間や時間をかけたくないという本音があるとすれば、討論は何重もの構造になっていて問題が錯綜してくる。
(f)宗教教育をどう考えるか。
ミッション系であることについて、カトリック精神に基づく「考え方が社会的に必要とされている」が約半数を占め、「実践していく必要がない」という回答は皆無であった。一方、どこにミッションであることを感じるかの問いには、「本校の生徒に対する指導」が1割以下しかなく、「教育課程・行事」「名前」「建造物」「シスター」など目に見えるものから感じとっている人が9割以上いる。さまざまな事情があるが、現状では、結果的として具体的に目に見えるものからしか感じ取りにくいということであろうか。また、シスターが少なくなったときは、「宗教教育は信者でなくても担っていく人があれば実践していく」と考えている人が半数以上である。ミッション系の私学の考え方とはいかなるものかの再確認が必要であろう。
②中学生対象のアンケートについて
(1)中学1年生
(a)学習面ではどうなっているか。
家庭での学習時間は、塾を含めて2~3時間が多い。週2回以上塾に通っている生徒が半分以上で、1割の生徒が家庭教師についている。塾(家庭教師)で習っている教科は英語が最も多く、目的は学校の成績を上げたいからが半数以上である。「授業内容がわからないとき普通どうするか」と問いで、「学校の先生に質問する」が5%しかいない。学校の成績を上げるために、塾などに行き、学校では質問しないという状況が見えてくる。成績については、もっと良くなると思っている生徒が7割以上である。積極的に生徒が教師に質問する姿が日常的に見られる教室にしたい。
(b)特別活動ではどうなっているか。
部活動には、6割以上が入っていない。入らない理由は、「帰宅が遅くなるから」が多く、通学条件が問題になっている。また、「勉強と両立できそうにないから」が次に多いが、塾へ通っている生徒数の多さを考えると、中学生の時期から、勉強をかなり意識していることがわかる。放課後は「すくに家に帰る」が9割になっている。中学生は、特別活動にあまり参加せず、塾に通うように学校に通っている生徒像が浮かび上がってくる。
(c)何を学校に期待しているか。
本校を受験することを決めた時期は、ほぼ8割が小学校5・6年生の時期である。入学は、7割が自分で希望し、7割が第一希望であったと答えている。受験するにあたって魅力を感じたのは、「英語教育に力をいれている」や「環境・設備に恵まれている」、「6年一貫教育」などがあげられる。全体的にイヤだと思っていることは、この時点では少ない。本校での学校生活で「受験に対応できる学力」、「英語の力」をしっかり身につけたいと思って入学している。卒業後の進路については、この時期すでに清心女子高等学校以外を考えているものが、23%もいる。
(2)中学3年生
(a)宗教教育についてどう思っているか。
ミッションスクールであるということは、それほど意識していないが、ミサには抵抗が無く、むしろ貴重な体験ができるととらえている。ただし、霊的講話は4割を超える生徒が必要ないとしている。「工夫して欲しい」を加えると7割になってしまうので、何らかの理解を促す取り組みが必要な時期にきている。
(b)学習面ではどうなっているか。
塾に通っている生徒が7割に増え、家庭教師に教えてもらった経験をもつ生徒も3割に増えている。習っている教科は英語・数学の2教科が多い。よくで勉強ができる生徒が多いと思っている。
(c)特別活動ではどのようになっているか。
部活動については、「参加し、充実した学校生活を過ごした」と思っているのは、3割程度で、加入数が低い結果と相関している。修学旅行は現在実施されていないが、6割の生徒が、計画を希望している。生徒の希望を考慮した立案を希望している。
(d)生徒指導をどのように思っているか。
校則については、自己評価で7割が「だいたい守れた」としている一方、不満があり、8割以上が「適切でない校則もあり改正して欲しい」という希望を持っている。また、全体的に守り方はルーズあるが校則が厳しすぎると思っている。制服については、8割以上の生徒が不満を持っており、生徒の意見も取り入れて変えて欲しいという希望がある。
(e)何を学校に期待しているか。
学校生活で魅力を感じるものについては、ほぼ中学校1年生と同じ傾向であるが、中学3年でのニュージーランド研修旅行の体験から「海外研修いける」が最も魅力あるものになっている。さらに、教育課程に海外研修が組み込まれたコースがあれば行きたいという生徒が6割いる。一方、「一人一人の個性を生かした教育をしている」と考えていない生徒が8割いる。パソコンを導入した授業には肯定的で、半分以上の生徒が家庭にパソコンを持っている。教師のパソコン及びインターネットの利用状況をみると、生徒の家庭環境の方が新しい社会の風潮に対する対応がはやいと思われる。新指導要領で、中学校でもパソコン及びインターネットの利用が含まれ、1998年度中に岡山市内の中学校全校がインターネット利用できるようにする方針であるので、本校においても、中学校における情報教育をいかに進めるか検討する時期にきていると思われる。
③高校生対象のアンケートについて
(1)高校1年生
(a) 学習面について、どう考えているか
家庭での学習時間は、2~3時間が多い。家庭学習が計画通り進まない理由で一番多いのが「宿題をするだけで精一杯」で、学校の宿題と家庭学習を別に考えている。中学生では「通学の疲れ」が理由に割合が多かったが高校では減っている。代わりに「学習内容が難しく、学習の仕方がわからない」が増えている。本校では遠距離通学生が多いが、高校瀬になって、通学には慣れたが、学習内容が難しくなり、受験も意識するようになったと考えられる。自分の成績については、中学生より、否定的で「悪い方だと思うし、自分には不満である」が約6割になる。しかしながら、まだ「努力すればもっと良くなる」と6割が思っている。
(b)特別活動について、どう考えているか。
部活動には、中学生同様、約6割が入っていない。部活動には行っていない場合は、放課後は「すぐに学校をでる」が8割以上で、学校が授業以外に時間を過ごす場としてあまり使われていない。修学旅行は、高校1年で長崎・五島方面に行くことになっていたが、そのことにあまり魅力を感じてはいない。修学旅行の行き先は沖縄に変更されが、現在の高校1年生に研修旅行の内容について質問されることもあるので、以前より肯定的に受け取られているように思われる。
(c)何を学校に期待しているか
魅力を感じたのは、中学生同様「英語教育に力をいれていること」がトップあげられている。本校のイメージとしては、やはり英語教育があるようだ、新しく赴任された英語の先生の中に、公立の採用試験は受かったが、英語教育をするのなら清心がいいと思っきたと話を聞いたことがあるが、社会的に「清心=英語教育」イメージがあるのだと思う。理科の教師としては、Ⅱコースの3分のⅠが理系がおり、女子校で物理の授業が開講できていることの方が凄いと思われるのだが、イメージにはなっていないようである。卒業後の進路は、ノートルダム清心女子大学への進学希望が1割、国公立大学進学希望が4割になっている。
(2)高校3年生
(a) 宗教教育についてどう考えているか。
中学校同様の傾向であるが、霊的講話について中学生ほど否定的ではない。ただ、Ⅱコースの方が「必要ない」と答える率が高く、32%になっており、「少し工夫して欲しい」をあわせるとやはり9割近くになる。何らかの工夫をする必要がある。我慢して聞かすことに意味があるという訓育的なとらえ方もあるが、講話の性質から考えるとそうかいえないと思われる。
(d)学習面ではどう考えているか。
塾や予備校に8割近く通っており、家庭教師に教えてもらう生徒もさらに増えて、4割以上になっている。塾や予備校に通っている生徒が多いためか、学校での補習授業については、自由参加にすべきであると考えているものが多い。コース制は受験のために設定されたものだが、コースそのものについては、両コースとも肯定的にとらえている。学歴や偏差値を肯定しながら、Ⅱコースの方が「10年先は、学歴優先社会ではなく、実力優先社会になっている」と思っている生徒が多いというのは以外であった。
(c)特別活動について、どう考えているか。
部活動については、「参加して、充実した高校生活を過ごした」という生徒は、Ⅰコースに多く、コースの性格を反映している。Ⅱコースでは2割しかいない状況である。修学旅行については、直接参加することはないが、クラスの枠を越えていくつかのコースから選ぶ方式や外国へ行くことなどに肯定的であった。また、本校の中学校に修学旅行が無いことに対して、6割があった方がいいと考えている。
(d)生徒指導をどのように思っているか。
校則については、「まあまあ守った」と自己評価しながら、校則は厳しいが、守り方はルーズである8割が思っている。また、「適切でない校則もあるので改正して欲しい」と考える生徒も8割いる。制服については、生徒の意見も取り入れて変えて欲しいという希望が9割近くあった。
(e)学校に何を期待するか。
魅力を感じるものについては、ほぼ高校1年生とほぼ同じ傾向であるが、「英語教育に力を入れている」がⅡコースでは支持率が下がっている。「教育課程に海外研修が組み込まれたコースがあれば行きたい」という生徒が6割おり、海外での生活体験を期待している。パソコンついては、家庭でのパソコン所有率が高く、約半数が持っている。高校では、新指導要領で、普通科高校でも「情報」の授業が新しく設定されたが、パソコンを導入した授業の導入には肯定的で7割以上が希望している。
④保護者対象のアンケートについて
約半数が教育費についてあまり負担を感じていないと答えている。公立中学校などで、なるべく生徒を部活動などさせて学校で面倒を見て欲しいなどの要望が強い。今回、保護者が学校へ何を期待しているかを把握すべく設問をつくったが、全体的に学校へあまり依存していない傾向が感じられた。長く学校に居させて欲しいという希望は少なく、また、もっと宿題を出せとも、勉強についていけないのは教え方が悪いからとも、言わない立場で、一方で勉強は学校だけで十分ではないと考えている。これらのことだけから判断すると、学校に依存していない、さらに言えば学校に期待していないとすら感じられる保護者像が浮かび上がってくる。昨今、問題になっているのは、「しつけ」などの家庭教育の役割まで学校の中に取り込まざるえない状況で、授業が成り立たなっていることが多いのではないだろうか。教員の立場から刷ると、一般の学校に比べ、一見「やりやすい」保護者といえようか。
ただ「成績が下がった時は個人的に指導して欲しい」が8割いる(保護者の立場からすれば当然かもしれない)。うがった見方をすれば、教育の名のもとに様々な強制的全体的集団指導が行われることは大きなお世話であるが、個人的には、細かく関わって欲しいというふうにも見えないことはない。個人指導とか教育の多様化が叫ばれる趨勢にありながら、現状の学校教育では集団指導をするしかない側面もある。また、別次元の問題として、民主的な集団づくりや集団の中で生きる力をつけることが、学校教育の目的の一つと考えるならば、それに対して本校では個人主義に流れている保護者からの理解や協力を得にくいといった事態が生じないでもないと言える。
子どもの将来については専門性をもった職業で活躍して欲しいと考えており、本校の教育に最も期待することは「自立した人間になるための女子教育」としている。自分で前向きに生きていって欲しいと、平凡ではあるが常識的かつ一般的な願いを子どもに対して持っているということがうかがえる。
4.プロジェクトについて
プロジェクトは1995年7月3日に将来の本校の姿を考えていくために立案され、誕生した。検討期間は2年間であった。プロジェクトでは、まず「建学の精神」について考えることから出発した。「建学の精神」について、各自が集めた資料をもとに発表した。次に、「過去10年の教育活動の見直し」として、プロジェクトチームの構成員が校務分掌の代表という立場であることから、「生徒会活動・生徒指導」、「入試・広報」、「進路」「行事・宗教教育」に分担して、各分野の資料を収集し、整理していった。1995年9月から10月にかけては、他校の状況を見るために、手分けして新設校、伝統校、私立校などいろいろな学校の文化祭に行った。仕事ではあるが、楽しみながら取り組んでいたと記憶している。アンケートは、このような過程で得た資料をもとにして内容を検討した。アンケート結果の分析をしながら、2年目に、具体的な将来の教育を討議した。そして、最終的に1997年8月29日の研修会で結果報告をした。以下は研修会の討議の結果をふまえてまとめたものである。
①どんな学校を目指すのか?
学力養成と人間教育の両方を目指す。ここでいう学力とは、受験のためだけでなく自己実現のための幅広いく学ぶ力を指すものであり、生涯学習につながるものである。人間教育とは、キリスト教精神に基づいて、たくましく生き抜く力を育てることである。大学合格者数のみを競う受験校は目指さないとした。
② これからまず早急な着手が必要なのは何か。
教育課程である。教育課程では、週5日制に伴う単位数の削減に対して、新しい教育課程をどのように組んでいくか問題になる。具体的には、今までの選択科目の内容を再検討し、削除する内容と新しく盛り込むべき内容を検討していく必要である。魅力となる教育過程の創造が必要であるとした。
※1998年度から、高校1年生で「国際情報」、1999年度の高校2年生で「発展科目」という新しい授業が設定されている。
※「国際情報」及び「発展科目」を盛り込んだ教育課程の取り組みは、平成10年度特色教育振興モデル事業として認められ、助成を受けている。
③ 教育環境を充実していかなければならない。
中学校受験者数の増加と高校受験者数の減少の関係を単純にとらえて、中学校のクラス数を増やす決定がにあった。最終的には実施にいたらなかったが、このとき、プロジェクトチームでも、議題にあげ、「特別教室などの教育施設の不備」「県外通学生が多さ」「受験者数の推移の把握と予測の検討の必要」などの問題点を指摘し、現段階では無理であるとした。このときに取り上げられた問題は現在も改善されていない。具体的に「クラス定員40名以下」、「特別教室の整備」、「教員の研修制度の充実」、「生徒用パソコンの導入」について前向きに検討する必要があるとした。
※ 高校に1998年度にパソコン教室2教室が整備され、生徒用48台が導入されている。
③ その他に対応した方がいい具体的問題とは何か。
「修学旅行・海外研修」と「制服」の問題である。修学旅行については、現在の修学旅行には不満もあるので、より充実した内容に変更する時期にきている。また、海外研修については、魅力を感じている生徒も多く、さらに充実させる方向で考えて欲しいとした。また、制服については、教員も生徒も不満感が強く、早急な検討が必要であるとした。
※ 制服については、制服検討委員会が組織され、現在検討中である。
※ 修学旅行については、1999年度高校2年生から、沖縄への研修旅行(「戦争・平和」、「歴史・文化」、「自然・環境」の3コース)実施が決定している。
最後に
明治5年の明治維新の「近代国家としての教育改革」、昭和23年の新憲法の「戦前の反省としての教育改革」、そして、今回の平成6年の臨教審・中教審の「血を流さずに行う教育改革」をまとめて、日本の3大改革といわれている(「改革」という言い方には問題のあるものもあるが、便宜上そのように表記する)。私自身にとっては、平成の教育改革が直接経験する最も大きな改革ということになる。平成の教育改革のキーワードは、ライフステージの変化に伴う「生涯教育」である。新指導要領の変更に帰着し、高校教育の先にある大学教育、大学院の教育、そして社会人の教育にも展開されている。具体的には、教育課程では、中学校での選択科目の導入や高校での総合科目、情報などの新設がある。
実際に教育をめぐるいろいろな局面が変化している。例えば、大学入試の選抜方法でも、小論文の導入や面接を重視した形式が多く取り入れられたり、生涯教育を目指して、社会人に大学や大学院が広く門を開くようになった。そして、教育環境を支えている行政のレベルでも、中高一貫教育や学区再編成など、教育制度の多様化と弾力化を推し進める方針が目立っている。受験の低年齢化する懸念があるが、大きな変化である。
今までの教育は、高校・大学と教育段階が進むほど、組織的(学科や学部など)には、目的別に細分化されているが、入試制度の設定の仕方や能力の捉え方など全体的に見れば、基本的に画一的であり、多様な教育対象に対して一つの制度で対応してきた。しかし、現代のようにニーズが複雑化すると、これまでの制度では対応しきれなくなってきているのが現実である。以前のように、「良妻賢母」や「立身出世」など目的が限られた時代なら対応できても、現代のように目的要素が幾重にも重なっている状況、例えば、「エリートとして認められたい」「学問的に研究したい」「趣味として楽しみたい」「教養を身につけたい」「就職に役立てたい」「規律正しい生活習慣を身につけたい」など複雑目的が絡み合った状況には対応できない。そして、旧来の画一的な扱い方とセットで最優先されてきた「みんな同じでなければならない」という平等主義もまた、再考が必要になってきている。今までは自由と豊かさを保証するためには「平等」が必要であったが、等質的な「平等」だけでは対処しきれない事態があらわれてきた。今やどんな目的設定をし、どんな教育を供給するかが、個々の学校に問われている。私学では「建学の理念(目的や方向性)が問われている」とよく言われてきたが、そのことは今や私学に限られたことではことではない。高度情報化や国際化、家庭地域の教育力の低下など、教育を取り巻く環境が大きく変化している今の時代は、異なる理念による異なる組織の再構築が必要な時代なのである。
公教育と受験勉強という視点から、「理想の教育が、偏差値教育にゆがめられてできない。」「本当の生きた英語教育がしたいが、受験があるからできない」という話がある。関連して、公教育の立場から考えて、「私立中高一貫有名校が、学習指導要領を逸脱した教育をして大学受験で名を上げ、実績を作っていることが悪い」といった風潮が作り上げられた時期があった。そして、1993年頃、偏差値を提供させないように、中学校での業者テストの実施が禁止されて話題になったことがある。偏差値が教育を歪めるから禁止ということであろうか。今再考して、本当にこの対策は実効があったのだろうか。現在、私が知っている公立中学校では、校内テストで独自のランキング表を作成して対応するようになっただけで、現場の進路指導の基本的方針は変わってはいない。一時期状況が混乱しただけである。変わった点は、学校をまたがる一斉テストでの業者の利益がなくなったということで、受験のあり方には影響を与えてはいない。この対策での限界は、入試が学力試験である限り、受験生の振り分けの道具として便利な偏差値が使われるのは当然であり、根本的に入学試験や学力観そのもの見直しをしなければ解決がつかないという単純なことに気がついていなかったということにある。
また、数年前、大学・短大の学科名に、「国際」が流行した時期があり、同じような名称が全国のいろいろな大学に登場したが、学生を獲得するための方策と考えられる節もあった、後に歴史的に判断される時、その教育改革が、ただ流行を追い求めたものであって欲しくない。内実のある将来を見据えたものであって欲しい。
本校の校歌を作詞した永瀬清子(当時79歳)が1985年5月3日の憲法記念日・県民の集いで次のように述べている。新しい時代に直面した我々に対するメッセージとして受け取りたい。
「つまり、今から考えてみて、はじめてあの時正当だったとか、正当でなかったとか、或いはこのような意味があったのだという事が考えられるので、その時、その時代にとっぷりはまっている時は意味がわかりません。それが歴史というものを学ぶわけだと考えます。以前、司馬遼太郎氏が面白いたとえを引かれましたが、平地にいたら敵がどこから攻めてくるのか見通せないわけですね。少しでも高い所つまりお城の物見台から見たら、あっ今あちらに敵が逃げたのは誘いであって実は伏勢がかくれている、とか、こちら側の敵は大勢のように見せかけても実は手薄だとかわかるわけです。その一歩でも二歩でも高い所から見るというのが歴史の本当の仕事で、何年何月に誰がどうしたという事実の記録も勿論大切ですが、つまりはこのように一歩あるいは数メートルの高さから事実の意味がより以上につかめるようになる事が大切なのだと思います。」
教育改革の時代という新しい局面を迎えたとき、今までの歴史を読み、正確に時代を判断し、勇気をもって一歩を踏み出すことが必要とされている。私学は、教育の理想と現実的な経営の問題の狭間にあっても、私学の理念を生かして、社会に貢献する新進的な役割をはたしていかなければならないと思う。
【参考新聞記事】
高校のコース多様化進む普通科高校(朝日新聞・1995年7月21日)
地元限定で推薦入試広島県教委流出に歯止め策(中国新聞・1995年8月28日)
特性生かし魅力づくり岡山の県立高校(山陽新聞・1995年8月28日)
生徒に人気インターネット授業(読売新聞・1995年9月30日)
薄い先生への信頼(朝日新聞・1995年10月21日)
学校依存強い日本の親(山陽新聞・1996年1月3日)
服から個性、生徒心開け(日本経済・夕刊1996年2月14日)
学校週5日完全実施・中教審小委報告案に明記「生きる力」育てる(読売新聞・1996年2月19日)
投票で「服装自由化」保護者の責任で校則変えます(毎日新聞・1996年2月24日)
校則見直しに拍車(東京新聞・1996年2月26日)
県立高校入試改革答申・普通科を中学校制へ拡大(山陽新聞・1996年2月26日)
社説・教育にもっと自由を(朝日新聞・1996年8月24日)
授業時間大幅減を検討教育課程審が初会合(朝日新聞・1996年8月26日)
十代に正しい性教育を(読売新聞1996年8月26日)
岡山県内の私立高校・相次ぐ共学化、校名変更(山陽新聞・1996年8月26日)
県立普通科28校の特色づくり・多様な選択肢提供(山陽新聞1997年11月30日)
ビデオで「制服」考えよう(朝日新聞1998年9月27日)
全生徒にメールアドレス・岡山県交流授業などに利用(日本経済新聞・1998年9月29日)
マルチメディア室開設・江見商高英語授業に活用(山陽新聞・1999年1月8日)
【雑誌資料】
中井浩一:教育改革現場ルポ--鴎友学園はなぜ立ち上がったか,中央公論 113(13), 90-101(1998)
【参考図書】
「教育改革・共生時代の学校づくり」藤田英典(岩波新書)
「新・コンピュータと教育」佐伯胖(岩波新書)
「校則の話」坂本秀夫(三一書房)
「動き始めた教育改革」寺脇研(主婦の友社)
「私の来た道」永瀬清子(岡山歴史文化協会)