理科教育(秋山繁治)研究室では、「オープン・ラボを起点とした理科課題研究を推進する科学教育ネットワークの構築」を研究課題にして取り組んでいる。以下は、目的について解説する。
文部科学省SSH事業における「学習によって育成された能力を統合し,課題の発見・解決に取り組む」科学課題研究の有効性を踏まえ,現学習指導要領の高等学校「理科」では「理科課題研究」が設定された.しかし,多くの学校では「理科課題研究」の履修率が非常に低く,課題研究を経験しない生徒が大半である.指導する教員も「どのような研究課題を設定するか」「どのように研究を指導するか」という問題を抱えて,混迷している.2022年度施行予定の新学習指導要領では,「理数探究基礎」「理数探究」が新設されるが,どのようにして課題研究の履修を推進し,指導できる教員を養成するかを示す実践モデルの構築を必要としている.
このような現状の下,本研究においては,大学が核となり,学校という「組織」でなく,理科教員と生徒という「人」の研究サポートを,大学を中心としたネットワークにより実施し,どのような地域のどのような学校であっても「理科課題研究」を実践できる仕組みづくりができる教育モデルを提示する.大学が地域の中等教育における理科教育をサポートすることは,日本の高度技術社会を支える人材育成につながる.
本研究では,大学に高校生対象としたオープン・ラボを設置して先端研究活動を行うことによる科学教育を行い,さらに地域から全国へ,高校と大学の教育ネットワークを構築し,それらの効果の検証を行うことを目的とする.具体的には以下の3つの項目を対象として研究を進める.
(1) 大学を核とする地域教員ネットワークにより,地域内学校に在籍している生徒の科学課題研究の場をオープン・ラボとして提供し,最先端の機器を用いて最先端の研究を進める.その成果の発表会(学会を含む)での成果報告や論文発表を目指す.さらにアンケート調査及び面談を行い,受講生に対する教育効果を検証する.
(2) 地域教員ネットワークに所属する教員に対して,教育講演を行うともにアンケート調査及び面談を行い,理科教育担当教員に必要なスキルの向上及び意識の変化を解明する.
(3) 理科課題研究の成果を共有できるテーマを設定している学校と全国的な生徒の科学研究の交流ネットワークを構築して情報交換会(オンサイトまたはオンライン)を開催し,高校生が高校生に向けて研究成果の発表とディスカッションをおこなう.アンケート調査及び面談を行い,高校生の意識の変化を明らかにする.
文部科学省SSH事業に採択されている高校は各都道府県にあるが数が限定されている.次期学習指導要領のキーワードである「探究」を目的とした科学教育の公平な機会を提供するには,進学した高校に限定されることなく,地域の知のネットワークで先端理科教育を実施することが望ましいと考えられる.地域の高校と大学が連携してネットワークを形成することは参加する高校生に最先端の研究を進める機会を提供するのみならず,地域内の理科教員に対する再教育の場となり,そのスキルの向上や意識の変化にもつながる.さらに,全国的なネットワークに繋がるシステムに理科課題研究に取り組んだ学生が参加することにより,科学研究の活動を通して,地域を超えたグローバルに活躍しうる傑出した科学技術人材の育成が可能になり,グローバル社会の科学教育を強力に推進する礎となると期待される.