発生教材として、カエルの仲間がよく用いられるが、受精率と胚の観察のしやすさでは、イモリの方が優れていると考えられる。ヒトなどの哺乳類の初期発生は体内で進み、ニワトリなどの鳥類の発生は輸卵管と卵殻中で行われるのでたやすく観察できない。それに対して、イモリなどの両生類は、受精から孵化までの過程が、透明なゼリー中で進むので、初期発生からすべての段階を観察できる。受精卵の縛り方によって双頭の幼生や別々に分かれて2匹のオタマジャクシになったりする結紮実験を通して、発生初期はその後の成長に大きな影響を与えることも理解できたと思われる。一卵双生児ができる仕組みも理解できる。また、サリドマイドは睡眠薬として妊婦のつわりや不眠症の改善のために多用され、四肢の発育不全を引き起こし手足が極端に未発達な状態(アザラシ肢症)で生まれるという悲劇を起こしたが、妊娠初期での薬物は胚発生に影響するということを再認識させることにも役立つと考えられる。また、今回の産卵誘発に使用したゴナトロピンは黄体形成ホルモンの代わりに不妊治療で使われる薬剤である。このイモリを使った実験は、薬剤の働きや副作用・薬害について考える機会も与えてくれる。
21世紀は生命科学の時代だといわれている。現代の理系の分類では生命科学に関連した分野が多くなっていることに気づく。生命科学は私たちの健康や生活に密着したものになっている。「生物学」も従来のように動植物を対象としたものから、直接でなくとも人間を対象としたもの「生命科学」に変わってきている。しかしながら、ヒトを中心にすべてを考えるのではなく、人間も自然環境の一部であるという認識を忘れてはならない。人間を学ぶために必要な知識を動物から学ぶことも必要なのである。