以下が、昨年度、起案した私(教養教職センター・理科教育研究室 秋山繁治)が考える教学改革です。
1 事業課題
地域創生に資する高大連携の科学教育のネットワークの構築
Structuring the university-high school science education cooperative network for the regional revitalization
2 提案の概要
今年告示された高校の新学習指導要領は、大幅な科目再編が特色である。新科目名に「探究」という言葉が目立ち、高校教育・大学教育・大学入学者選抜を一体とした「高大接続改革」が推し進めるという方向性がうかがえる。そして、具体的な取り組みとしては、高校の授業での探究学習の強化、高大接続(大学との共同研究)の取組の推進、創造性、独創性を高める指導方法、教材の開発等の取組が求められている。本改革では、都城市を中心とした「科学課題研究」の取り組みを推進する地域の学校教育のネットワークづくり」を目指したい。
The newly revised high school "Course of Study" issued this year has restructured a wide variety of subjects. Some of new subjects include "Exploratory" or "Applied" in their names showing a movement toward a "recasting of the connection between universities and high schools" aimed at unifying high school education, university education, and university entrance examination system. Reinforcement of explorative research in high school classes, promotion of university-high school cooperation, their collaborative research, engagement in advancing the instruction methodology of creativity and uniqueness, and development of teaching materials are some of the initiatives striving to achieve the goals. This redefinition of the university-high school relationship is aiming at establishing "the regional network of education promoting the science research programs based on the region of Miyakonojo City.
3 目的
文部科学省は、2002年度から先進的な理数教育を行う高等学校(スーパーサイエンスハイスクール:SSH)を指定して科学教育に取り組んでいるが、宮崎県は全国で最もSSH指定校の少ない県(全国最下位)になっている。
一方、多くのSSH校で、「課題研究」等の探求的な科目が、数学と理科で育成された能力を統合し、課題の発見・解決に探求的に取り組むことで教育効果が高いことが実証され、次期学習指導要領(2022年度から実施)の改訂内容(「探求」的な科目を盛り込む)にも影響を与えるほどの成果を上げている。
① 都城市唯一の大学であり、理科教員養成をになう本学にとって、「地域の学校と連携して、科学教育の推進に貢献すること」は社会的な使命である。
②「課題研究」等の探求的な学習が求められている中等教育の先には、大学での「人材育成のあり方」が問われているという現実がある。本学にとって、人材育成を通して地域社会とのつながりをもつことが将来の生徒募集、経営の好天につながる要因になる。
※①②の観点から、本改革では、都城市を中心とした「科学課題研究」の取り組みを推進する地域の学校教育のネットワークづくりを目指したい。
【重点課題】
① 「学生たちがときめくような夢のある大学」創り
〇教員を志す学生に、学校教育の最前線の取り組みを紹介することができる(科学研究の指導、科学研究発表交流会)。
② 地域社会と連携した地域課題解決のための教育プログラム創り
〇高大連携の推進によって地域の科学教育の拠点としての役割を果たす(オープンラボの開設)。
〇本学での教員養成が、新学習指導要領にそった時代の趨勢に沿った理科教員養成の方針で運営されていることを明示できる(地域貢献、情報発信)。
③ 社会の持続的な発展を牽引するための多様な力をもつ学生の育成
〇科学教育の重点的な推進は国の方針であり、地域の持続的な発展に貢献できる(科学研究の指導、科学技術人材の育成)。
④ 本学独自の教育の質に係る客観的指標(例えばアセスメントポリシーなど)の確立
〇理科教員養成の一環として実施する社会貢献の事業(科学研究に取り組む高校生のサポートや科学研究の成果を発表する交流会の開催)であり、その事業の評価は、①参加する生徒の数及び定着度、②イベントへの参加人数、③科学研究に取り組んだ生徒の学会やコンペでの成果、④教育活動を紹介したHPのアクセス数の推移を指標にしておこなう(社会的評価)。
〇大学生への教育的効果については、理科免許取得希望者数、理科での教員採用試験の受験者数の増減で長期的には確認したい(教育効果)。
⑤ 個人・学科・学部等で行っている教学改革を全学に連携・展開
〇現段階(初年度)では、県立泉丘高等学校(地元で学力的にトップと位置)の生徒を対象に、教職教養センターの理科教育の研究室をオープン・ラボとして高校生に開放し、科学課題研究に利用してもらうことから始めたい。また、科学研究発表交流会を通してその成果を情報発信し、さらに中学校や他の高等学校を巻き込んだ科学教育を中心に据えた教育連携のネットワークを拡大していきたい。
〇将来的には、本学人間関係学部・宮崎県教育委員会・都城市教育委員会との協力体制を構築することも必要になってくると考えられる(科学教育連携のネットワーク構築)。
【社会的背景】
今回(2018年3月告示)の学習指導要領改訂では多くの教科で科目再編が行われている。
今回の改訂は、「高大接続」改革という、高等学校教育を含む初等中等教育改革と、「大学教育」改革、そして両者をつなぐ「大学入学者選抜」改革の一体的改革の中で実施される学習指導要領の改訂であることに注意する必要がある。
その主な改善事項として①~⑦があげられているが、その最初の2項目(以下の①②)は、いずれも科学教育に関連する内容である。国レベルで、科学教育の重要性が意識されているがわかる。
① 言語能力の確実な育成
・ 科目の特性に応じた語彙の確実な習得,主張と論拠の関係や推論の仕方など,情報を的確に理解し効果的に表現する力の育成を図ることとしたこと。
・ 学習の基盤としての各教科等における言語活動を充実したこと。
② 理数教育の充実
・ 理数を学ぶことの有用性の実感や理数への関心を高める観点から,日常生活や社会との関連を重視するとともに,見通しをもった観察,実験を行うことなどの科学的に探究する学習活動を充実させたこと。
・ 必要なデータを収集・分析し,その傾向を踏まえて課題を解決するための統計教育を充実したこと。
・ 将来,学術研究を通じた知の創出をもたらすことができる創造性豊かな人材の育成を目指し,新たな探究的科目として,「理数探究基礎」及び「理数探究」を新設したこと。
高等学校では、「理数探究」という科目が新設され、また、「総合的な学習の時間」が高校で「総合的な探究の時間」に名称変更される。
「理数探究基礎」・「理数探究」は、どの高校も開設できる新教科「理数科」に位置付けられる新科目で、理数系に力を入れる高校を指定した「スーパーサイエンスハイスクール」(SSH、2017年度は全国で国公私立203校)のミニ版とも言える。「理数探求基礎」・「理数探求」は、基礎総合学習の横断教科を理科と数学に限った科目ともいえる科目になっている。また、2025年1月からの共通テスト見直しで「理数探究」が出題科目になる予定があり、受験科目に指定する大学が増えるという予想がある
前学習指導要領の「総合的な学習の時間」は、高等学校では各教科の専門性が高く、進路対策を重視する意識が強いため、教科横断的な学習や課題発見・解決能力の育成までに至らなかったとことが指摘されている。そこで、「総合的な探求」とし、「考えるための技法」を「自在に」活用できるようにすることを明確化し、自ら課題を発見することを重視した探究活動を行うという設定にしている。
【学習指導要領で示された、「理数教育の充実」のポイント】
① 理数を学ぶことの有用性の実感や理数への関心を高める観点から、日常生活や社会との関連を重視するとともに、見通しをもった観察、実験を行うことなどの科学的に探究する。
② 学習活動の充実(理科)などの充実により学習の質を向上させる。
③ 必要なデータを収集・分析し、その傾向を踏まえて課題を解決するための統計教育を充実させる。
④ 将来、学術研究を通じた知の創出をもたらすことができる創造性豊かな人材の育成を目指し、新たな探究的科目として、「理数探究基礎」及び「理数探究」を新設した。
4 具体的方法
(1) 地元の高等学校との科学教育の連携(重点課題①②③④に該当)
都城市内の県立都城泉丘高等学校と連携して科学課題研究の取り組みに協力し、その市内の科学教育の拠点になるように育て、さらに市内中学校にも波及さるような取り組みを行う。
「中等教科教育法Ⅰ」「中等教科教育法Ⅱ」「生物学実験」履修している学生も指導を体験させ、地域社会への意識や教員志望の意識を高める。
(2) 課題研究の対象は、環境問題を考える教材になるものを選定(重点課題①②③に該当)
科学研究のテーマについては、九州に生息する生物を対象としたい。希少野生動物の保護・保全役立つ研究や環境問題を考える材料にする方針で選び、今年度、県立都城泉丘高等学校生物部で研究対象とするのは、絶滅危惧Ⅱ類に指定されているオオイタサンショウウオと外来種のミシシッピアカミミガメとした。
(3) 都城キャンパスに中高校生の科学研究を指導する部屋をオープンラボとして開設する(②③に該当)。
高校生は高校では実験設備が十分でないので、課題研究に取り組むオープン・ラボ(高校生が実験のために開放した場所)として、教職・教養センターの動物実験室を提供したい。
(4) 科学課題研究の成果発表会の開催(重点課題②③⑤)
科学研究発表会に参加する機会の少ない女子生徒が参加できるように、都城市で女子生徒による科学研究発表交流会を開催する。※以下の【開催プラン】を参照
(5) 指導した高校生の学会や科学研究のコンペへの参加(重点課題③④)
研究成果を発表する場として、まずは、生物系の全国規模の科学研究発表会(高校生バイオサミット・慶応大学)に出場できるように指導していきたい。そして、女子生徒には、国の女子の理系進学支援の方針を受けて、女子生徒による科学研究発表交流会全国大会(学習院大学)派遣したい。
(6) 南九州大学生物教室のホームページの立ち上げ(重点課題④⑤)
高校生の科学課題研究、科学研究発表交流会、大学での講義「中等理科教育法Ⅰ」「中等理科教育法Ⅱ」「生物実験」の取り組みを情報発信する。