グローバルな視点で理科教育を考える
「なぜ銃を与えることはとても簡単なのに、本を与えることはとても難しいのでしょうか。なぜ戦車をつくることはとても簡単で、学校を建てることはとても難しいのでしょうか。」 2014年、17歳でノーベル平和賞を受賞したパキスタンのマララ・ユスフザイさんの言葉である。彼女は"女性が教育を受ける権利"を訴え続けてきた。今も、女子だからという理由で学校教育を受けられない国が存在しているのだ。
私たちが住んでいる日本は、本が自由に手に入る国である。しかしながら、先進諸国と比較すると科学技術分野で活躍する女性の割合は非常に低い。当然、理系に進学する女子生徒は非常に少ない。その打開のために「女性科学者支援」や「女子生徒の理系進学支援」を政府の方針として出している。今回、この状況を少しでも改善するモデルケースになるようなカリキュラム作成の場として、生命科学コースを立ち上げた。これからの社会は、どの分野においても、男女の壁なく能力を出し合って協力できる体制が必要とされるのは事実だからである。
科学技術振興機構『未来の科学者養成講座開発支援プログラム5年間の開発成果報告』(2013)に、大学が実施している小中高生対象の科学教育では、「男女によるプログラムの違いを設けている実施機関はとくにない」とある。また、「自分の理系の才能に自信がもてたか」の問いに対する受講生の回答に男女差があり、肯定が男子29.2%、女子13.5%で、女子は自信をもちにくい傾向にあったとしている。そして、まとめとして「この傾向は、女性の才能育成とキャリア形成に関わる問題として内外に指摘されていることと符合する」と明示されており、理系トップ人材育成事業においても、女子の自信をどう育むかということが重要な課題の一つとして取り上げられている。
今回の取り組みで、教育カリキュラムを刷新して5年で生徒の"科学研究"で成果を得ることができ、10年で"科学研究"を通して他校の生徒や研究者と交流を進めることができた。そして、"科学研究"に取り組む過程で英語の運用能力育成の必要性を痛感することになり、"科学研究"が懸け橋になって、国境を超えた交流を実現した。今、学校教育で話題になっているグローバル教育を進めていくためのヒントも、本校が取り組んできた「知識」、「体験」、「研究」を絡めた教育プログラムにあるのではないかと考えている。7)8)9)10)
今、学校教育では、パソコンやiPadなどのハード的な進歩が大きな影響を与えており、科学技術の恩恵も受けている。教材開発においてもその成果が目立っている。しかしながら、逆に今だからこそ、学校教育の根幹に"直接体験"と"交流(人間関係)"があることを忘れてはならないと考えている。このカリキュラムを実践して、"自然"の役割と生徒たちの互いの協力関係の大切さを痛いほどに感じさせてもらった。
これまで女子の理系進学支援をテーマに、高等学校段階の教育プログラム開発を中心に取り組んできた。次の段階は併設中学校と連結した教育プログラム開発と現時点で実現できていない系列大学との高大接続だと考えている。さらに充実した教育モデルを提示できるように、新たな試みに着手して、生徒たちがそれぞれの将来に向けて夢を描いて巣立っていけるような教育プログラムを提供したいと考えている。