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「SSHの指定から2期10年,何を目指したのか」

2016年6月28日

はじめに
「なぜ銃を与えることはとても簡単なのに,本を与えることはとても難しいのでしょうか.なぜ戦車をつくることはとても簡単で,学校を建てることはとても難しいのでしょうか.2014年,17歳でノーベル平和賞を受賞したパキスタンのマララ・ユスフザイさんの言葉である.彼女は"女性が教育を受ける権利"を訴え続けてきた.今も,女子だからという理由で学校教育を受けられない国が存在しているのだ.
本校は,2006年に私立女子校として全国で初めて文部科学省スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受けた.第3期科学技術基本計画で科学技術分野での女性研究者の活躍が促進され,理系分野を目指す女子中高生に対する支援の必要性が取り上げられる時代を背景に,研究課題を「生命科学コースの導入から出発する女性の科学技術分野での活躍を支援できる女子校での教育モデルの構築」として出発した.現在,SSH第3期目の指定を受けて継続しているが,ここでは第2期10年間の取り組みを終えた段階でどのように事業を展開してきたかをまとめてみたい.

SSH申請の背景
この度,10年目のSSH研究開発実施報告を送らせていただいた方から,メールで以下のような言葉をいただいた.
「小さな田舎の伝統ある女子校の教育方針とそれを支援する地域の背景などを考えると,どうしてこんな学校を指定したのだろうというのが第一印象でした.しかし,貴兄の"情熱"には脱帽です.しかも先を見越したアイディアと指導力はすごいと唸ることばかりでした.貴兄のような先生が存在し,実践させてくれた学校や貴兄に惚れ込んだ研究者等の皆さんの支援体制も素晴らしいと思いました.SSHは生徒を育てるだけでなく先生も育てられるということの証になったと思っています.」
私立女子校として,全国で初めてSSH指定を受けたものの,当初は「理系に進学する生徒が少ないのにできるのか」,「今まで通り英語教育だけやっておけばいいのに」,というような厳しい言葉を受けての船出だった.

生徒の"科学研究"が出発点
本校のSSHの第一歩は,「生命科学コース」を立ち上げることだった.当時は,全国的に薬学部新設が続いた頃で,女子生徒の医療分野への進学が加速していることを追い風にして,女子生徒の理系進学支援をコンセプトに,まずは生命科学分野からということで,「生命科学コース」が誕生した.「知識」,「体験」,「研究」を絡めた教育プログラムの開発を始め,「知識」と「体験」を「研究」に集約するという方向で全体を構築した.「研究」のレベルを上げれば,それに必要な学ぶ姿勢や基礎知識,学力が身につくと考えたのだ.
第1期SSHでは,全国レベルの研究発表会で高い評価を得るという"わかりやすい"目標を設定した.SSH指定前に部活動で科学部はあったものの,少人数で,しかも発表会に参加した経験はまったくなかった.日本学生科学賞や高校科学技術チャレンジ(JSEC)への応募など考えられない状況だった.日本学生科学賞やJSECの最終審査会に出場するという目標は,部活でいえば,今まで高校野球で地方大会1回戦すら勝てない野球部を甲子園に導こうとするようなものだった.
2006年に「生命科学コース」を開設した当初,生徒たちに「自分たちも科学研究で成果を出せる」という気持ちをもってもらうことと「学校に科学研究に取り組める恵まれた環境がある」と認識させることが重要だと考えた.そして,まずは一度研究成果で評価を得ることが大切だと考えた.最初に発表する場として,SSH生徒研究発表会を設定した.具体的にターゲットを絞ることで,終着点が設定されるので,それに向かって生徒に目的意識が芽生えてきているのを感じた.発表の結果,なんとか「科学技術振興機構理事長賞」を受賞することができた.ここで評価されたことが生徒に縁遠かった全国レベルの大会を身近に感じさせることになり,後輩の生徒たちにも科学研究に取り組む上でのいい流れをつくってくれたと感じている.
それ以後,学会のポスター発表や高校生の科学発表会でコンスタントに入賞できるようになり,指導する方もSSHの運営や科学研究の指導が評価され,読売教育賞優秀賞,小柴科学教育賞奨励賞,東レ理科教育賞などを受賞することができた.

2016-発表数の推移.jpg

教育プログラムの開発
SSHとして「知識」,「体験」,「研究」を絡めた教育プログラムを開発していく上で,①ロールモデルの提示,②直接体験の重視,③リーダーシップの育成,④国際性の育成,という4つの視点を意識してきた.「知識」では,課題研究に必要な知識や技術を得るために「生命科学基礎」,「実践英語」,「生命」を設定した.「体験」では,多様な自然体験ができるように「自然探求Ⅰ」(森林実習),「自然探求Ⅱ」(臨海実習),自然探求A(マレーシア環境学習)を設定し,野外実習を盛り込んだ内容を実施した.そして,「研究」では,「生命科学課題研究」を設定し,研究内容別にグループに分けて,大学の研究室の指導者と大学生のような関係を築くことができた.

交流のためのキーワードは"科学研究"
本校SSH第1期では,「研究」の成果を出せる教育プログラムの開発に取り組み,第2期では,他校との交流,社会への情報発信を積極的に行った.
第1期4年目から,発表者が女子だけの"交流会"として「集まれ!理系女子・女子生徒による科学研究発表交流会」を主催している.年々参加者が増え,第2期5年目の第7回では,ポスター発表数98件,参加者約400人を集める全国規模の大会に成長している.
また,第2期5年目には,継続して実施してきた「自然探究A」で関わったマレーシアの大学生・大学院生を招待して,「自然探究Ⅰ」の森林調査を一緒に行い交流を深めることもできた.その調査結果をマレーシア開催のInternational Conference on BIODIVERSITY 2015で本校生徒に発表させる機会をもつことができた.
そして,社会への情報発信としては,科学英語研究会と中高連携理科教材研究会を開催している.ディベートを導入した英語の授業や,考案した教材を使った理科の授業を公開し,私立公立の枠を越えた交流を目指した.
今,アクティブラーニングが話題になっているが,アクティブラーニングとは,「思考を活性化する」学習形態のことであり,新しい教育機器を用いないとできないものではない.教員と生徒が相互に知性を高めていく生徒主体型の教育方法であるなら,究極のアクティブラーニングは,生徒の"科学研究"だと考えている.

これからの学校教育
 SSH指定をきっかけに,教育内容を刷新して5年で生徒の"科学研究"で成果を得ることができ,10年で"科学研究"を通して他校との交流を進めることができた.そして,"科学研究"に取り組む過程で英語の運用能力育成の必要性を痛感することになり,"科学研究"が懸け橋になって,国境を超えた交流を実現した.今,学校教育で話題になっているグローバル教育やアクティブラーニングを進めていくためのヒントも,本校が取り組んできた「知識」,「体験」,「研究」を絡めた教育プログラムにあると考えている.

1)秋山繁治:SSH指定から七年,その成果と課題,大学時報(日本私立大学連盟),No.352,p44-51(2013).
2)問田雅美:ツールとしてのディベートによる英語力養成,中国地区教育学会研究紀要,No.23(2013)
3)秋山繁治・田中福人:清心女子高等学校生物部の歩み,生物工学会誌,第86号.p415-416(2008)
4)秋山繁治:総合的な学習の授業「生命」での生き方教育,現代性教育研究月報(日本性教育協会),Vol.23,No.8(2005)

  • 投稿者 akiyama : 07:46

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