人間の生きる喜びや幸福は他者との関係からしか得ることはできません。人間は全体の一部であり、全体とともに生きているという感覚を「共同体感覚」(アルフレッド・アドラーのMitmenschichkeit)といいます。共同体感覚が欠如することによって、人を蹴落としてでも出世したいと考えたり、自分をことさら大きく見せようとしたり、他者を支配しようと考えたりしてしまうのです。共同体感覚がない人の人生は、私的な捉え方しかしないので、自分が行ったことで得る利益は自分だけのためにあると考え、関心は自分にだけ向けられています。そのような人の人生の目標は単なる虚構の個人的な優越感を得ることにあり、利益を得ること(勝つこと)は自分自身に対してしか意味を持っていません。したがって、自分の損得にしか関心がないので、共同体に属しながら他人の役に立つとか、共同体を維持していくために取り組むとかいう発想を持っていないのです。共同体とは、会社であったり、国であったり、世界であったりしますが、その共同体を健全に維持するために最も必要なのが、その共同体の構成員の「共同体感覚」だといえます。