森博嗣の「冷たい密室と博士たち」を読んでいて次の記載を見つけた。「・・・犀川はネクタイを二本しか持っていないようだ。今までに見たことのあるものは二種類しかないし、いずれもほとんど同じ色だ。さらにつけ加えるなら、犀川はいつも同じ色の靴下を穿いている。どうやら、同じ色のものを何足も持っているらしい。萌絵は勇気を出して一度その理由をきいたことがある。犀川の答えは簡単だった。同じものを沢山持っていれば、片方の靴下がなくなっても、もう片方が使える。」という箇所である。この箇所を見つけて、僕とほぼ同じことを考えている人がいることが嬉しかった。
僕自身は、大学卒業後最初に勤務した高校(名古屋市・金城学院高校)で、一年間一本のネクタイを使った使ったことがある。ネクタイをすること自体が嫌いだったが、校長に身なりをキチンとするように言われたので、とりあえずネクタイを一本だけ購入して使っていた。一年間勤務し、年度末になった時には、そのネクタイは裏側が擦り切れてぼろぼろになっていた。金城学院を辞めて地元岡山に帰る前になって、一人の生徒に一年間同じネクタイをしていたことを指摘されて、恐縮したことを今でも覚えている。生徒がネクタイをチャックしていることなんて、大学を卒業して間もないころの自分は想像できなかった。
それから、ソックスについては、今僕が持っているソックスは同じ色(黒色)で、同じ模様(もちろん同じメーカー・ユニクロ)である。現段階で使用中のものが20足、新品のストックが10足はあると思う。理由は犀川先生とほぼ同じだが、僕の場合は、無くすことを想定しているのではなく、片方のゴムが伸びてしまったり、破れても、他のものとセットにすればさらに使えるという理由である。
ある日、教員室の机の上に新品のソックス10足くらい置いているのを生徒に見られて飽きれられてしまったことがある。その生徒にとっては、「全部同じ」であることが、非常に衝撃的だったようだ。「いろいろな色や柄を楽しもうとは思わないのですか」と言われた。僕にとって非常に合理的な理由あって行っていることであったも、他人にとって理解しがたい事象と理解されることがあるということが驚きであった。
森博嗣さんは、この作品を書かれたときに名古屋大学に勤務されてそうだし、年齢も僕と一歳しか違わない。団塊の世代の後の世代で、高度成長の真っ只中を生きてきたという点で共通しているのかもしれない。