1988年11月20日第1刷発行
1989年1月20日第4刷発行
この書評(出典:『長銀総研エル』1988年12月号)すごくまとまっていて、内容の要約もされていて素晴らしいです。初版は1988年でブルー・バックス(科学ものを扱う新書)として発行されましたが、20年を経て2011年に復刻され文庫本になりました。今の時代にこそ再読されて意味のある本だと思います。ただし、新しいものを受け入れることのできない保守的なリーダーにとっては、「単なる成功者の話でしかないかもしれません。松下やソニーが今どうなっているのかを考えると、真摯に受け止めなければならない話です。会社の経営者でなくても、小さなグループのリーダーであっても、そのようなプロジェクトを成功させて鍵がここにあるような気がします。僕自身は、学校という場で、生徒会の顧問として、生徒と相談しながら学校行事を改革する場でも、今文科省SSH事業を運営する場でも「不良社員(有効に任務を進めてくれる人材)」を得て、楽しく過ごしてきました。背後から鉄砲で撃たれることは常にあることです。私立高校であるがゆえに、国公立でないというだけで「私立は勝手なことができるから・・」とか批判的な言葉を多く浴びせられてきました。私立では、人間関係が固定しているので、利害がはっきりしています。それが故に妬みや嫉妬もくらうので攻撃のまとにもなります。下手をすると失敗の責任を押し付けられて、スケープ・ゴート(生贄)になりそうなこともあります。生徒の入学数が減ったことの原因にされたりもします。今の日本の学校教育で、「科学技術者養成支援」と「女子の理系進学支援」、「ESD(持続可能な開発のための教育)」は重視して取り組まなければならない社会的な課題だと考えています。個人も組織も、目の先の利益に翻弄されるのが常かもしれませんが、改革を否定する場合は、「私にとって困るのこのなのか(個人的な都合)」なのか、「将来的に社会が困るのか」という視点で考えて欲しいと思います。
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書評『人材は「不良(ハミダシ)社員」から探せ』(現在は講談社+α文庫)
何とも過激なタイトルである。中身はタイトルにもまして過激だ。ただ、これぐらいでないと本書のメインテーマである「画期的プロジェクトの成功」など考えないほうがよいのかもしれない。そういう意味では非常に厳しい内容の本である。
本書は、画期的プロジェクト(本書では基本的にメーカーの技術開発を念頭に置いている)成功の条件を様々な側面から浮かび上がらせようとした試みであり、D博士(知る人ぞ知る)の聞き書きという形をとっている。D博士の語り口は実に熱っぽい。
D博士は数々の画期的プロジェクト(CDプレーヤー、ワークステーションその他)を成功させてきた歴戦のツワモノである。組織内での研究開発のあり方、特にプロジェクーを失敗させる要因についての発言は、数々の体験に基づいたものであるだけに、きわめて手厳しいものがある。
まず「失敗要件」を要約してみよう。
① 協調精神、② 「良い子」の存在、③ サロン化、④ 不明瞭な雰囲気、⑤ 船頭が多すぎる、⑥ マネジャーが邪魔をする、⑦ 上を向いて仕事をしている。
組織風土としては良く見えるものも、実はプロジェクー遂行の上で阻害要因となっている場合があることが分かる。
次に「成功要件」を見てみよう。ただし、これらはあくまでプロジェクト成功の必要条件であって、これをやればうまくいくという意味での十分条件ではない。
まず、個人的な条件として必要なのは、① プロのセンス、② 戦略眼、③ 強力な推進力・達成意欲、④ 観劇する心、⑤ 頭の柔らかさ、⑥ 好奇心、⑦ 茶目っけ、⑧ 行動力、⑨ 問題提示能力、⑩ 問題(とくにトラブル)解決能力、⑪ その分野の専門知識、⑫ 向上意欲・積極性である。
そして、プロジェクーを遂行するチームにとっての必要条件は、次のとおりだ。
① 目標は単純明快、センスが良く画期的で、ユニークであり、短期間で達成可能なこと。
② 人材たちの魂の底からほとばしる目標であり(高い志)、成功の直感がすること。
③ 一定レベル以上の人間集団(感受性、心の広さ、頭の柔らかさ、感激する心、好奇心、積極性、戦略の理解力)であること。
④ リーダーとフォロワーがはっきりしており感情的な抗争がない。また、専門が適度に分散している。
⑤ チームとして自律的に動ける。
⑥ 全体のムードは、ほどよく楽観的、ほどよく過激。力んでおらず、目がつりあがっていない。
⑦ 大問題が発生しても、ビックりしたりあわてたりしない。着実に解決策を出す。
このように列挙してみると、すぐにでもできるような気もしてくるが、これがなかなか難しいことはプロジェクー経験(技術開発に限らない)のある方ならお分かりのことと思う。また、たとえ成功条件をクリアしたとしてもあらゆる方向(特に内部)から邪魔が入ってくる。第14章で D博士自身がいうように、「‥‥だから(画期的プロジェクトは)あまり人には勧められないのですヨ。だいたいはうまくいかないケースが多いですからナ。徒労が多く、消耗するのがオチです。もし、うまくいきそうになったとしても確実に背後から鉄砲で撃たれる」 のである。
結局、次のような人間がリーダーとして存在することが不可欠なのだ。「・・画期的なプロジェクーを遂行するということは大変な闘いなんです。これを闘いと認識して闘いを楽しめる人には、すぼらしい喜びを提供するでしょう・・」
自ら「不良社員」であることをもって任ずる社具のみならず(たんなる不良社員なら内容の厳しさにへキエキするだろう)、経営者・管理者のいずれもが読むべき本であると評者は確信する。
新書版で200ページのボリュームだから、通勤電車の中で読める。だが、あくまでも「成功の奥義」の解説書であって、ハウツー物ではない。読み捨てにできない本である。
(K・サトウ)
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23年前(!)に、わたしが書いた文章ですが、とくに付け加えることはありません。この時点では、まだイヌ型ロボットの AIBO はまだ市場には登場していませんでした。このたびの文庫版では、活字も大きくなって 240ページになっていますが、この本は面白いのでぜひ読むことをお奨めしたいと思います。新版のまえがきで、著者は本書の内容がチクセントミハーイのフロー概念や、内発的動機理論にも合致したものであえることを語っています。
本書は、著者が40歳代の、まさに油に乗っているときに、現役の開発責任者として書かれたものだけに説得力があるのです。そうじゃなくても就活事情が悪化して萎縮してしまいがちな日本と日本人ですが、型破りのブレークスルの製品開発には、いまな亡きスティーブ・ジョブズとまではいかなくても「不良社員」が不可欠。道をはずれることを恐れず、回り道することを恐れず、「不良社員」を大いに活用したいものですね。かつてのソニーのように、大きな度量をもって。