八ッ塚実さんは、1961~1989年まで公立中学校の教員をされていた方である。
著書『おとなになるということ』のあとがきより
いつか若い教師から、たずねられたことがある。
「あなたは、自動車にも乗らないで、よくも長い間、学校の教員がつとまりましたね。問題が起こったときは、どうしていたんですか」
移動力。
そういえば、現在の教育現場を支配している発想の中に、大きなウェイトを占めているのが、この機動力だ。
私はこう答えた。
「テクテク歩いたんですよ。どんなときもテクテク歩いて仕事をしてきました。車がなくて困ったことはありませんでした」
学校の坂道を登りながら、いつも私の前後には中学生たちが共に歩いていた。
学校の坂道を下りながら、いつも私の前後には中学生たちが共に歩いていた。
話しながら登校し、そして下校した。
中学生と同じ歩幅で歩いた。中学生と同じ吐息をついた。中学生と同じ景色をふり返った。中学生の想いを、肌で感じることができた。
僕の場合は、中学生や高校生と寄り添って教育してきたと言えるかな、初めて担任をしたときに学級通信を出していたことを思い出す。今は、土曜日も日曜日も祝日も、夜も、生物教室に棲んで、イモリやサンショウウオを眺めている。他の教員とはあまり関わりたくなくなってしまった。生物教室を訪れる生徒たちが生物の世話に取り組んでくれるのを見ることだけが学校での喜びになっている。そして、・・・・新年度に向けて、4月からもカメをラジオテレメトリーを使って毎日追跡してくれる生徒が登場してくれることを祈っている・・・。カメの気持ちも理解したい。