井上智香子、原悠歌、秋山繁治(指導教諭)
(ノートルダム清心学園・清心女子高等学校・生命科学コース)
【目的】
近年、外国から移入されたカメの生態系への影響が心配されている。カミツキガメやワニガメなどがヒトに危害を与える可能性があるということで話題になったが、より大きな問題は生態系そのものへの悪影響である。そして、帰化種のカメで生態系へのもっとも大きな影響が懸念されているのがアカミミガメである。アカミミガメは、「ミドリガメ」という名で、ペットとして多い時は年間100万匹以上が日本に輸入され、現在、把握できないほど多くの個体が全国各地に生息している状況に陥っているからである。
本研究では、水田地帯でのアカミミガメの生態を明らかにすることを目指した。現在、農業の効率化を進めるために、水田地域では圃場整備や、水路のコンクリート化が進んでいる。そして、その人為的な環境の改変によって野生生物の生存に危機を与えているとも言われている。そのような環境でも急激に生息数を伸ばしているのがミシシッピアカミミガメである。今回は、その行動を詳細に調査することによって、生息状況を知るだけでなく、同所的に生息する在来種のカメへの影響を明らかにするための知見が得られると考えた。
【方法】
カメの調査は、2009年度から学校周辺の水田地帯で捕獲調査を実施して、研究に十分な個体数が生息していることを確認しているので、行動範囲、移動パターン、移動経路を調べるために、テレメトリー法(各個体の継続的な移動を知る)と標識採捕法(全体的な大きな移動傾向を知る)を並行して行った。テレメトリー法については、雌雄各2匹ずつ計4匹に小型発信機をつけ、受信機を用いて毎日1個体ごとの居場所を確認(追跡)する作業を行った。また、月1回、用水路沿いに定点を設定し一斉にトラップを仕掛け、6時間後に回収するという捕獲調査も行った。
【結果】
・調査地約17haの範囲でアカミミガメ114匹が確認できた。
・雌雄とも7月、10月に移動が活発である。
・通常は水路に生息しているが、水田に水が入っている7月は、水田内でも確認できた。
・9月上旬(越冬時期の前)からコンクリート化されていない水路に集まる傾向がある。
・同所的に、在来種のクサガメ84匹が生息している。
【考察】
・7月に移動が活発なのは、繁殖の機会を増やすためだと考えられる。
・7月はどの水田にも水が入り、エサの豊富な水田への行動範囲を広げたと考えられる。
・10月に移動が活発であったのは、越冬に向けて餌を探しているためだと考えられる。
・ミシシッピアカミミガメの多さから、同所的に生息するクサガメを駆逐している可能性がある。