今年も、8月3日・4日にパシフィコ横浜で、スーパーサイエンス生徒研究発表会が開催される。今年の発表の要旨は以下の通り。SSH指定から5年間取り組んできた環境問題を扱う。問題提起になればいいと考えている。
生態系における森林の役割を探る
(人工林と天然林の二酸化炭素吸収量の推定)
1.目的
地球上に生息する多くの生物は好気呼吸によって二酸化炭素を放出するが、一方で植物が光合成によって二酸化炭素を吸収することによって生態系のバランスが維持されている。近年、化石燃料の消費を中心とした人間活動によって二酸化炭素排出量が年々増加し、伐採によって森林が急速に減少しており、地球温暖化をはじめとする自然環境への影響が危惧されている。ここでは、生態系における森林の重要性を再認識するため、樹木による二酸化炭素吸収量を推定することを目的とした。
2.調査地と研究方法
調査地は岡山県真庭市に位置する鳥取大学フィールドサイエンスセンター教育研究林「蒜山の森」である。ヒノキの人工林とアカマツやクリなどの優占する天然林を対象に5年間フィールド調査を継続してきた。毎年10 m×10 mのプロットを4~5個ずつ選定した。プロット内の樹木の樹種を識別し、①直径、②樹高、③樹齢を測定した。直径と樹高から樹木の体積を求め、密度データを使って質量に換算し、樹木に含まれる炭素重量を計算した。その値を樹齢で割って1年当たりに固定された炭素量を求め、その炭素量から吸収された二酸化炭素量を推定した。
3.結果と考察
二酸化炭素の吸収量は、1年間で人工林では100m2あたり140kg、天然林では100 m2あたり260kgになった。天然林は人工林と比べて、樹種の多様性が高く、樹高の高低に大きく差がある複雑な階層構造を示した。その結果、光合成を効率よく行って二酸化炭素吸収量が多くなったと考えられる。また、アカマツは他の樹木と比べて二酸化炭素吸収量が高いことがわかった。これは、直径や樹高の成長量が大きいため二酸化炭素吸収量も多くなったと考えられる。
4.結論
天然林は人工林に比べて二酸化炭素吸収量が多いことがわかった。日本人1人が1年で家庭から排出する二酸化炭素は約2.0tなので、人工林100m2で処理できるのは約0.07人分、天然林でも約0.13人分にしかならない。二酸化炭素の急激な増加が地球規模の環境問題になっているが、その解決に向けて私たちに求められているのは、自然度の高い森林生態系を守っていくことと、私たち自らが二酸化炭素の排出を抑制するライフスタイルに変えていくことである。
5.参考文献
林野庁監修(1998)林業技術ハンドブック. 全国林業改良普及協会
6.キーワード生態系 二酸化炭素 人工林 天然林