【Affirmative Constructive Speech(肯定側立論)】6分
私たちは、小学校での動物飼育は止めるべきだと思います。その主な理由は二つです。
第1に、健康の問題があります。
生徒や教師の中には、動物アレルギーを持っている人もいます。最近、動物アレルギーは増加の傾向にあります。動物の毛・皮膚・唾液・糞尿などは、アレルギー性の鼻炎や皮膚炎、気管支喘息などを引き起こします。中でも、気管支喘息は深刻です。喘息は重症になると、窒息や心不全で死亡することもあります。実際に、このようなケースがあります。40代のある男性がハムスターに噛まれ、傷口から入ったハムスターの唾液によってショック症状を起こし、持病の気管支喘息が悪化して数時間後に死亡してしまいました。アレルギーを持つ人が動物に触れるのは、このような深刻なリスクがあるのです。
また、動物由来の感染症も危険です。例えば、2004年には鳥インフルエンザが世界的に流行しました。鳥類は学校でよく飼われていますが、当時、その危険を避けるために鳥の飼育をやめた学校が多くありました。他にも、鳥小屋の掃除中などに乾燥したフンを吸いこむことによって、「オウム病」になることもあります。この病気は、重症になると死亡する場合もあります。
動物を飼うことには、このような危険が伴うのです。
2番目は、管理の問題です。
私たちの学校では、2008年に岡山県内の小学校435校に学校飼育動物のアンケートを行い、83%の360校から回答を得ました。その中で、「飼育で何か困っていることはあるか」と聞いたところ、最も多かったのが「夏休み中などの飼育管理」でした。そして「休日の飼育担当者は誰か。」という質問には、78%が「教師のみ」と答えました。現状では、管理は教師任せの学校が多く、教師も管理に困っているということが分かります。
飼育上で困っていることについて、次に多かった答えが「教師も飼育方法が分からない」ということでした。多くの小学校で動物を飼育しているにも関わらず、教師の養成課程には動物の適切な飼育法や、動物飼育の子どもへの影響や意義を学ぶ授業がないため、教師が正しい知識を持っていないのも無理はありません。しかしそのことで、色々な問題が起きています。例えば、多くの学校ではウサギが間違った方法で飼われてしまっています。アンケートでは、オスとメスを分けていない学校は65%、オスを去勢していない学校は91%ありました。その結果、繁殖のしすぎという問題が起こっています。岡山県内のある学校には40羽ものウサギがいるそうです。必要以上の動物の飼育は、管理をさらに大変にさせ、飼育環境の衛生面にも悪影響をもたらします。また、動物が死んだ後の処理が分からず、ゴミとして処分している学校もありました。それを子どもたちが見たとき、どう思うでしょうか。良い影響があるはずがありません。
このように、学校での動物飼育は、学校や教師にとって大きな負担になっているのです。
よって私たちは、このような全てリスクを負ってまで、学校で動物を飼育する必要はないと主張します。
【Cross Examination(否定側からの質疑)】2分
否定側:質問が3点あります。第一に、アレルギーを持っている人は、動物と関わることは絶対に出来ないのでしょうか。
肯定側:安全を考えると、関わることはできません。
否定側:次に、「オウム病」などの動物由来感染症についてですが、予防策があるのではないでしょうか。
肯定側:予防策はあります。
否定側:3つ目に、管理の問題について、それを改善する方法はないのでしょうか。
肯定側:方法はありますが、実現は難しいです。
否定側:以上です。ありがとうございました。
肯定側:ありがとうございました。
【Negative Constructive Speech(否定側立論)】6分
私たちは、小学校での動物飼育は絶対にやめるべきではないと思います。その主な理由は二つです。
第1に、動物を飼うことにより、子どもに生命の尊さを理解させることが出来るからです。
学校での動物飼育が始まったのは明治時代で、約百年の長い歴史があります。動物と肌を触れ合い、世話をし、新しい命の誕生の喜びや、死の悲しみを身近に経験することにより、命の尊さや、弱者をいたわる思いやりの心をはぐくめることが証明されているのです。この「心の教育」の一環として、文部省の現在の学習指導要領でも、小学校での動物飼育が推奨されています。
2000年に、小学生192人に行ったある調査によると、「友だちがいじめられていたらどう思うか」という質問に、動物を飼育した経験のある子どもの半数以上が「助けたい」と答えたそうです。しかし、経験のない子どもの半数以上は「かわいそう」と答えただけでした。また、「かわいがっていた動物との死別体験をもつ子どもは、自殺を否定的に捉える」という調査結果もあります。このことからも、動物を飼うという経験が他者への思いやりや命を大切にする心を育てると言えます。近年、命を軽視したり、人権を無視した「いじめ」等の青少年による残虐な行為が目立っていますが、幼いうちから生命の尊さを学ぶことで、それらの犯罪を防止することにも役立ちます。
第2に、動物を飼うことは教育効果が大変高いからです。
動物は、モノではありません。扱い方を間違ったり、放っておけば死んでしまいます。モノとは違って、自分の都合だけで行動していたら、取り返しがつかないことが起こるのです。動物の世話をする中でそれを実感し、きちんと世話をしなければならないという責任感を子どもに芽生えさせます。また、教師や友人と協力して飼育をする中で、協調性も生まれます。さらに、動物たちを世話しているうちに愛情が芽生え、そのかわいい動物たちが「どうしたら喜んでくれるだろう」と真剣に考えるようになり、他者の立場に立って考える心や、観察力も身につきます。子どもたちは、モノとは違う動物を飼うことで、責任感や協調性、観察力などを自然に身につけることができるのです。動物は、これらのことを教えるうえで、絶好の教材と言えます。
本来、生命尊重の心や思いやりの心は、乳幼児期から家庭内で育成されます。しかし現在では、核家族化や少子化で、子どもを取り巻く社会環境が変化し、人間関係が希薄になっています。また、住宅事情により家庭で動物を育てられない家庭も多くあり、家庭でこれらのことを教えるのが困難になっています。そのような状況のなか、生命を理解し、命を重んじる態度は、学校での動物飼育を通じて子どもに教える必要があるのです。
よって私たちは、小学校での動物飼育はやめるべきではないと主張します。
【Cross Examination(肯定側からの質疑)】2分
肯定側:質問が3点あります。最初に確認したいのですが、動物を飼育すれば必ず命の尊さが理解できるのですね。
否定側:はい、そう考えています。
肯定側:生命の尊さを理解させるのに、学校での動物飼育が不可欠であるとお考えですか。
肯定側:最後に、動物飼育が犯罪防止につながるというデータはありますか。
否定側:具体的なデータはありませんが、アメリカの研究で、動物虐待と凶悪犯罪には因果関係があるという結果が出ています。
肯定側:以上です。ありがとうございました。
否定側:ありがとうございました。
【Affirmative Rebuttal(肯定側反駁)】5分
否定側の意見について、3点反論があります。
1つ目に、「動物飼育で必ず命の尊さが理解できる」という点ですが、飼育の方法を間違った場合、それとは逆のことが起こってしまいます。最初にも述べましたが、現状では、学校での動物の管理が徹底できていません。具体例として、1997年に埼玉県の小学校で、増えすぎたウサギを生き埋めにして処分するという事件が起こりました。これは新聞などでも大きく取り上げられました。その後も、同じような事例が全国各地で起こっています。また、ずさんな管理のせいで動物が悲惨な状況で飼われている学校もあります。動物の命が人間の都合で無責任に扱われていることを知ったとき、子どもの心は傷つき、死に対しても鈍感になるでしょう。こういった現状の中で無理をして動物を飼っても、子どもに命の尊さを学ばせるどころか、命を軽視する傾向を助長するだけです。
2つ目に、「生命の尊さを理解させるためには学校での動物飼育が不可欠である」ということですが、本当にそうでしょうか。中には、動物を飼育していない学校もあるのはご存知だと思います。また、全ての国で、学校での動物飼育を推奨しているわけではありません。そのようなところでは、生命の尊さを理解させる教育は不可能なのでしょうか。私たちは、動物の飼育をしなくても、学校での友だちなどの人間同士の関わり合いや、本やビデオから学べる知識によって、十分理解させられると思います。
3つ目に、教育効果に関して「責任感を養うことができる」ということですが、アンケートの通り、学校では教師主導で飼育が行われているのが現状です。例えば休みの日には、子どもが世話をしなくても、先生たちが世話をしてくれる学校が多いのです。その中で、子どもの責任感を養うことは難しいと思います。
次に、否定側からの質問について、もう少し詳しくお答えします。
動物由来感染症について、予防策はあると言いました。予防策として、目や口にウイルスが入らないようにするためには、ゴーグルやマスク、手袋などを身につけることになります。しかしそれでは、肯定側が言う「動物と肌を触れ合い、命の大切さを理解させる」ということもできなくなり、動物を飼育する意味がなくなるのではないでしょうか。
よって、否定側が言っているメリットは生じないと思います。以上です。
【Cross Examination(否定側からの質疑)】2分
否定側:質問が2点あります。第一に、動物の管理がきちんとできていれば、命の尊さを学べるということは認めますか。
肯定側:完璧に管理ができた場合にのみ、学べるでしょう。
否定側:次に、命を教える教材としての本やビデオは、動物の命と同じくらいの重さの教材であると言えますか。
肯定側:同じとは言えなくても、十分に役割を果たすことができると思います。
否定側:以上です。ありがとうございました。
肯定側:ありがとうございました。
【Negative Rebuttal(否定側反駁)】5分
肯定側の意見について、3点反論があります。
アレルギーを持っている人は動物と関われないということですが、私たちは配慮をすれば関わることができると思います。それに、たとえ直接動物と触れ合うことが出来なくても、飼育に関わる作業には参加できます。例えば、当番制で世話をするなら、当番表の作成を担当するとか、動物の名前をみんなで考えるとか。そしてそれは、十分に意味があることです。アレルギーが原因で家で動物を飼えない子どもにとっては、学校で飼育活動に参加することは特に貴重な体験です。その経験がなければ、彼らは一度も動物に関わらずに大人になってしまうかもしれません。
2つ目に、動物由来感染症が危険だということですが、特に学校でよく飼育されている動物については、実際はそれほど重大な問題はありません。例えば、ニュースで話題になった鳥インフルエンザのウイルスは渡り鳥が運ぶもので、学校で飼われている鳥が感染する確率は低く、人に感染する確率も非常に低いのです。日本医師会のホームページによると、その他の動物由来感染症についても、小屋を清潔に保ち、動物に触れた後には手洗い・うがいをすること、また、餌の口移しなどの濃厚な接触をしないことで、ほとんどは防げるそうです。よって、これは大きな問題ではありません。
3つ目に、管理の問題を改善するのは難しいということですが、私たちはそうは思いません。教師が管理方法を知らないことが問題なら、獣医師などの専門家に協力してもらい、教えてもらって知識を得れば解決することです。教師の負担が大きいことが問題なら、休日中の生徒の当番制を徹底したり、保護者や地域の人にも協力してもらうことで、負担は軽くなります。また、現在、動物のレンタル飼育というものもあります。業者が動物を一定期間学校に貸し出し、飼育指導や休暇中の動物預かり、過剰動物の引き取りなどをしてくれるというものです。どうしても管理が難しいならば、こういった便利なサービスを利用すればよいのです。
よって、肯定側が言っている問題点は、重要ではありません。以上です。
【Cross Examination(肯定側からの質疑)】2分
肯定側:質問が3点あります。動物と触れ合わずに大人になることに、何か問題がありますか。
否定側:はい、あります。
肯定側:2つ目に管理の改善について、教師の負担を軽くするためには、保護者や地域の人など、学校外の人にも協力してもらわなければならないのですね。
否定側:場合によっては、そうです。
肯定側:最後に、これらの管理の問題の改善策について、可能だとしても、改善のためには長い時間がかかるのではないですか。
肯定側:以上です。ありがとうございました。
否定側:ありがとうございました。