東京大学教養学部駒場キャンパスで、高校生対象の科学研究の発表会がありました。本校の以下の発表が優秀賞をいただきました。
授賞式の様子
花酵母の採取・分離と花の種類との関係
発表者 竹居セラ [顧問 秋山繁治]
【要旨】
酵母は出芽または分裂によって増殖する、球形に近い単細胞の子嚢菌である。パンや清酒用として工業的に利用されたり,遺伝子工学の研究に利用されたり,人間生活に深く関わっている。酵母は嫌気呼吸(嫌気的な条件下では解糖系からアルコール発酵へと代謝が進む)を行い,アルコール発酵を行う代表として教科書で取りあげられている。しかしパン酵母も,好気的条件下では呼吸(TCAサイクル)により多くのエネルギーを得ている。嫌気的条件下では,野生の酵母はすべてアルコール発酵を行うのだろうか。
野生の酵母は,花や果実に比較的多く生息しているといわれる。花をつける植物は蜜を求めてやってくる昆虫によって花粉が運ばれ,その繁殖が助けられている。花の蜜はまた,酵母の増殖にも役立っている。花に生息している酵母は,昆虫の体に付着して別の花へと運ばれ,そこで新たに増殖を開始する。そのため,花の酵母と虫とは,生態学的に緊密な関係にあると予想される。
【目的】
以上のような背景をふまえ,本課題研究では,様々な花を採取し、それらに生息している野生の酵母を分離・採取し,(1)リボソームRNAをコードするDNAの配列や電気泳動核型をもとに,採取した酵母を分類する,(2)花の種と酵母の種との関係を微生物生態学的に解析する,(3)採取した野生酵母のアルコール発酵能の有無を検定する。以上の実験・研究を通して,自然界に存在する微生物のうち,「酵母」に分類される真核微生物の多様性,生態,機能およびその生息する花との関係について考察することを目的とする。
【材料・方法】
今回は2008年10月下旬より2009年6月上旬の間に,二子山周辺や花屋などで採取した64種の花について,柱頭,やく,花びらの中心などを綿棒でこすり取り,分離源とした。分離用の培地にはYPG(Yeast extract 1%,Peptone 2%,Glucose 2%),YPM(Yeast extract 1%,Peptone 2%,Malt extract 2%),PDA(Potato dextrose agar)の3種を用いた。培地にはクロラムフェニコールを最終濃度100g/mlとなるように添加した。分離源を各液体培地に懸濁し,懸濁液を各平板培地にスプレッドして,25〜28℃で数日〜10間培養した。形成されたコロニーの観察と細胞の顕微鏡観察によって、大きさ,形状,色,つやより,酵母と推定されるものを選択し,各々新しい培地に移し,最終的に独立コロニーとして分離した。分離した菌株は染色体DNAの電気泳動核型や18SrDNAの塩基配列によって同定を試みた。また簡易アルコール発酵試験(ダーラムテスト)も行った。
【結果】
現在までに,約60種の花より,菌株約100種を分離したが,実際に酵母と判定できたものは7種であった。顕微鏡観察により,細胞の形状は卵型,楕円型,円錐型,レモン型などであった。大きさは短径3〜5m,長径5〜10mの範囲であった。同一の花から数種類分離される場合と,全く分離されない場合があった。花屋の花や冬に採取された花からは,酵母,カビ,細菌は多くは採取されなかった。また,アルコール発酵能をもつ野生の酵母は採取されていない。数種の分離菌株について,rDNAの塩基配列決定を試みた。
【考察】
現在までに,酵母の分離培養技術はほぼ確立できたと考えている。今回花をサンプリングしたのは,昆虫が頻繁には飛来しない丘の上(倉敷市二子山)である。そのため,低地で花を採取すれば,より多くの菌株を採取できると推測される。また採取場所を固定し(モデル地区を設定し),年間を通じて分離を継続することで,花と酵母の関係をより正確に知ることが可能になると考えている。