2009年度スーパーサイエンスハイスクール生徒研究発表会でポスター発表に参加する本校代表が数理科学グループの研究課題「方位磁石を使った自発的対称性の破れ理論の可視化モデルとその解析」に決定した。この研究では、2006年にSSH指定を受けてから、3年間かけて磁石について研究してきた成果を報告する。以下は、提出したレジメである。
【目的】
磁石は、温度を高くすると磁性を失い、そのまま温度を下げた場合は磁性を持たない。しかし原子に内在する磁気モーメントは“自発的対称性の破れ”のために部分的に整列している。この磁気モーメントが整列する様子を方位磁石で可視化し、その配列を解析し、規則性をみつける。
【方法】
①一列に並べた方位磁石(写真1)の磁場に外部から擾乱を与え、無秩序な初期状態にする。
②方位磁石の相互作用で安定した状態になる。
③その配列を数値化(※の数理モデル参照)して、実験値を求める。
④実験値と仮定したモデルを比較する。
写真1
※「数理モデル」
方位磁石の向きは右・左の2方向とし、結合エネルギーは、隣接の磁石と同方向で低く、逆方向で高い(イジングモデルの応用)とする。エネルギーの低い状態が安定であるとしてシミュレーションを行う。このとき同方向の結合エネルギーを-1、逆方向を+1として計算する。
【結果】
方位磁石の数が増えるに従って逆転する個所は増えるが、1つの磁石当たりの結合エネルギーは変化しない。方位磁石を使った実験は、初期条件の乱雑な状態から対称性が減っていく現象(“自発的対称性の破れ”)を十分に可視化できるモデルとなっていると考えられる。
【考察】 数理モデルでは、磁石の強さ、引っかかり現象や摩擦などの影響を考慮せず単純化して考えているので、実験値との差が出ていると考えられる。
さらに、「外部磁場の強さを変化させた場合、配列がどのように変化するか」や「方位磁石を環状(写真2)にした場合、配列がどのように変化するか」についても実験し、モデルとして有効であることを確かめたい。
写真2
【参考文献】
斉藤 吉彦(2005) 物理教育 Vol.53-2,pp103-108.
南部陽一郎(1998) 「クォーク 第2版」, pp211-221,講談社.
【キーワード】
磁石 イジングモデル 自発的対称性の破れ