津田良夫 (国立感染症研究所昆虫医科学部媒介生態室) の二枚目のプリントの内容は以下です。
⑫蚊が病気を伝搬する仕組み
蚊が媒介する病原体は大きく2種類に分けられる。ひとつは、蚊によって体内にとりこまれてから、蚊の体内で増殖して病原体の数が増えるもの(ウイルスや原虫などmicro parasiteと呼ばれる)、もうひとつは、蚊の体内に取り込まれてから発育するだけで増殖しないもの(フィラリアなどmacro parasiteと呼ばれる)。
病原体は、蚊にとっては外界から入り込んでくる異物なので、これを防ぐ(排除する)ための仕組みを蚊は持っている。その仕組みを回避して蚊の体内で発育したり、増殖したりできるようになった病原体だけが、蚊によって媒介される。病気によって媒介する蚊の種類は異なり、多くの病気では媒介する蚊の種類は限られている。ある種類の蚊の体内で病原体がどの程度うまく発育や増殖ができるかは遺伝的に決まっており、病原体に対する感受性と呼ばれている。
吸血によって血液とともに病原体が蚊の消化管内に取り込まれる。(蚊など昆虫は開放血管系である。哺乳類のような血管はなくて、体全体が血液で満たされている。)消化管内に取り込まれた病原体は、消化管の壁を通過して細胞や蚊の体液(血液のこと)に侵入する。その後、発育や増殖に適した組織や細胞に入り込こむ。蚊の体内で発育を完了した病原体や体内で増殖した病原体は、蚊の唾液腺(唾液を作り、吸血の時に分泌する組織)に移動する。病原体は唾液腺の内部に入り込んで、蚊が吸血するときに唾液とともに吸血されている動物の血管に注入される。
病原体が、蚊の体内に取り込まれてから唾液腺に達するまでおおよそ10日から2週間かかる。この間に蚊が死んでしまえば病気をうつすことはできない。
⑭蚊の病気伝搬力を決めている性質
(1)病原体に対する感受性: 病原体の発育や増殖に適した種類ほど度伝搬力は大きい。
(2)蚊の生息密度(刺される程度): 蚊がたくさんいるほど伝搬力は大きい。
(3)人を吸血する性質の強さ(人嗜好性): 人の病気の場合、人をよく吸血する種類ほど伝搬力は大きい。
(4)寿命: 寿命が長い種類ほど伝搬力は大きい。