「中学生・高校生バイオ研究発表会」で日本生物工学会から以下のK-15の発表が”奨励賞”を受けました。
花酵母の採取・分類とその働き
柴田千穂子(2年)・奥智美(2年)・近藤裕季(2年)・長井香依(2年)・樋口智香(2年)・前田祐伽(2年)
秋山繁治(指導教員)・清心女子高等学校(岡山県)
【研究の背景】
高等学校の生物の教科書では,酵母は無性生殖を行う生物の例として取りあげられ,出芽により増殖すると記載されている。多くのキノコ,カビ,そして細菌にも「性」の機構が存在することが明らかにされつつあるが,酵母はすべて無性的に増殖するだけなのだろうか。自然には数多くの酵母が存在するが,その中には有性的に遺伝子交換を行いながら増殖するものはいないのだろうか。また出芽ではなく,分裂によって増殖する酵母はいないのだろうか。
一方,酵母は嫌気呼吸を行い,アルコール発酵を行う代表として取りあげられている。しかし教科書で取り扱うパン酵母も,嫌気的な条件下では解糖系からアルコール発酵へと代謝が進むが,好気的条件下では呼吸(TCAサイクル)により多くのエネルギーを得ている。嫌気的条件下では,野生の酵母はすべてアルコール発酵を行うのだろうか。また,アルコール以外に,私たちの生活に役立つ物質を作り出す酵母はいないのだろうか。
野生の酵母は,花や果実に比較的多く生息しているといわれる。花をつける植物は蜜を求めてやってくる虫によって花粉が運ばれ,その繁殖が助けられている。花の蜜はまた,酵母の増殖にも役立っている。花に生息している酵母は,虫の体に付着して別の花へと運ばれ,そこで新たに増殖を開始する。そのため,花の酵母と虫とは,生態学的に緊密な関係にあると予想される。
【研究の目的】
以上のような背景をふまえ,本研究課題では,清心女子高校のある倉敷市二子山,鳥取大学蒜山演習林,西表島などより,様々な花に生息している野生の酵母を分離・採取し,(1)リボソームRNAをコードするDNAの配列や電気泳動核型をもとに,採取した酵母を分類する,(2)花の種と酵母の種との関係を微生物生態学的に解析する,(3)採取した酵母の胞子形成能を調べ,性を持つ酵母菌株を検索する,(4)採取した野生酵母の働きを調べ,人間生活に有用な菌株が見いだされるか検定する。以上の実験・研究を通して,自然界に存在する微生物のうち,「酵母」に分類される真核微生物の多様性,生態,
機能およびその有用性について考察することを目的とする。
【材料・方法】
今回は2007年5月下旬より9月上旬の間に,二子山周辺で採集した約40種の花について,柱頭,やく,花びらの中心などを綿棒でこすり取り,分離源とした。分離用の培地にはYPG(Yeast extract 1%,Peptone 2%,Glucose 2%),YPM(Yeast extract 1%,Peptone 2%,Malt extract 2%),PDA(Potato dextrose agar)の3種を用いた。培地にはクロラムフェニコールを最終濃度100 g/mlとなるように添加した。分離源を各液体培地に懸濁し,懸濁液を各平板培地にスプレッドして,25~28℃で数日~1週間培養した。形成されたコロニーの,大きさ,形状,色,つやより,酵母と推定されるものを選択し,各々新しい培地に移した。各コロニーを形成している細胞を顕微鏡観察し,酵母と判断されるものについて,再度単コロニー分離を行い,独立コロニーとして分離した。分離した菌株は,分離用培地で作製した斜面培地で,4℃で保存した。
【結果】
現在までに,約40種の花より,酵母と思われる菌株約20種を分離した。顕微鏡観察により,細胞の形状は卵型,楕円型,円錐型,レモン型などであった。大きさは短径3~5 m,長径5~10 mの範囲であった。同一の花から数種類分離される場合と,全く分離されない場合があった。数種の分離菌株につい
て,リボソームDNAの塩基配列決定を試みた。