【第5分科会討議資料】
「生命」をテーマとして、高等学校の総合学習でどのような取り組みができるか。
発表者 清心中学校・清心女子高等学校 教諭 秋 山 繁 治
はじめに
2003年度から高校の教育課程に、今までの教科の枠を超えた内容が扱える「総合的な学習」が導入された。「生きる力」を育てるという視点で、「性」も大きなテーマになると考えられた。しかしながら、予想に反して「性」を中心に扱った取り組みが少ないのが現状である。今回は、「総合的な学習」の導入に先駆けて、1999年度から開講している授業「生命」について討議の話題として紹介させていただきたい。
1.なぜ、性教育が進められにくいのか
岡山県性教育協議会で、教師対象の性教育についてのアンケートを行ったことがある。「性教育が必要ですか」という質問に、97%が「必要である」と答えている。その理由については、全体的には「自分を大切にして欲しい」という生徒への直接的な要望をあげているが、男性や年齢の高い世代では「性道徳の低下」という社会への影響を理由としてあげる比率が高くなっている。
この背景には教育活動についての考え方に性別や世代によって大きな違いがあることを示している。教育活動を個人の幸福に帰着させるものと考えるか、または社会に対する役割を果たすものと考えるか、の違いを表している。前者から見れば、後者は個人を大切にする視点を欠いているととらえられるし、逆に後者から前者をみれば、個人主義だととらえられることにもなる。性教育の必要性は多くの教師が認めているが、性別や世代によって求める方向が異なり、そのことが性教育を進めにくくしている。
2.広い視点で性教育を考える
今、高校3年生の性交体験者は4割を越し、未成年の中絶者が年々増えている状況を考えると、私自身は、「避妊を教えることが、性交をすすめる」と危惧するより、性の基礎知識を的確に与えることを優先することの方が学校教育で必要だと思う。また、性については、「女子高生の性の乱れ」と表現されるように女性の性経験ばかりに好奇の目を向け、中絶や望まない妊娠などで「傷つくのは女だけだ」といわれるように、男女で非対称的な意識の歪みが現在でも存在している。そして、同性愛などの性的なマイノリティに対する偏見も根深い。そのことを考えると、性教育は、性のあり方によって差別されない社会をつくっていく役割も担っていかなければならない。
3.総合的な学習での取り組みについて
授業「生命」は、本校の自由選択科目「発展科目」(「総合的な学習」として設定、高校2年生対象、週2時間)の一つとして実施している。この授業では、「性」について学ぶことから出発して、人には多様な考え方があることを知ってもらい、生徒自身に「どのように生きるか」を再考してもらうことを目的にしている。具体的な展開は4つに分けられる。性に関わる基礎知識の習得を目指した「講義」。それから、グループ討議や心理テストなどによる「自己分析」。与えられた課題レポート作成のための「調査活動」。そして、学外からの講師による「講演」である。
4.なぜ、授業「生命」を考えたか
教科の授業で生徒に「教科書にのっていないことは、勉強しなくてもいいですか」と聞かれたことがある。とっさに「興味があったら、高校で学習する内容より詳しく調べていくこともいい勉強だよ」と答えた。中学生、高校生にもなると、「テストに出なければやらなくていい」という損得で物事を考えるような発想になってしまっている生徒も多い。ボランティア活動でさえ、評価されるからやるという損得の発想による活動になってしまう可能性もある。授業「生命」では、正解のない課題(例えば「野外彫刻は猥褻か芸術か」など)を教師が生徒とともに考える過程なども取り入れて、「知識をもった教師が生徒に一方的に教える」という今までの授業とは違う発想で、教師と生徒が興味を共有できるような授業ができないかと考えた。
授業「生命」は今年で6年目になるが、人気のある授業として定着してきている。定員を30名にしているが、受講希望者が多く、倍以上になることもある。教科の授業より集中して聞いている生徒が圧倒的に多いのにびっくりする。授業の感想はe-mailで書くように指示しているが、その日のうちに書いてくる生徒も多く、積極性を肌で感じることができる。このことは「どのように生きるか」を考えるための材料を提供する授業が、今の若い世代にも魅力的なものになる可能性があることを意味しているのではないだろうか。
5.総合的な学習でどのように生徒を評価するか
「総合的な学習」については、5段階で評価される教科の授業とは違ったメッセージを生徒に感じてもらうような工夫が必要である。その点を考慮して、本校では、「学習意欲・態度」「考え方・学び方」「学習成果」という3つの視点で区分して、生徒の各項目についての自己評価も参考にしてA、B、Cの3段階の評価をしている。