カスミサンショウウオの成体は、繁殖場所である水田側溝や湧水が流れ込む水溜まりの周辺の林床で生活しています。地中のミミズやモグラなどの掘った穴を利用しています。夜行性で、地中で生活しているので、日常生活で出会うことはめったにありませんが、その姿を見かけるとすれば、繁殖期に産卵場所に集まってきたときです。
産卵は、県南部では2~3月で、県北部では4月が最盛期になります。県北部の上斎原村や西粟倉村のように残雪があって水温が上がらない地域では、5月になって産卵がみられる場合もあります。流れがないか弱い、そして水温が安定した場所を選んで、毎年同じ場所を産卵に利用します(写真4)。
写真4.産卵場所(玉野市)
産卵場所に訪れるのは雄が先です。県南部の備前市で、最盛期より随分早い1月1日に水中に潜んでいる雄を見つけたことがあります。気の早い雄は12月でも産卵場に現れて、雌をまっているのかもしれません。この時期は、雌雄ともに尾幅が広くなり、尾長も長くなります。特に雄の変化は顕著で、頭幅が大きくなり、尾がひれ状に見えるほど著しく変化をする個体もあります。
水中に入り、繁殖場所にたどり着いた雄は落ち葉などの堆積物の下、植物の陰、泥の穴、石の下などに縄張り(テリトリー)をつくり、水中でじっと雌が産卵にくるのを待ちます。近づいてくる雄には、「噛み付く」、「吻端でつつく」、「尾を激しく振る」などの行動をします。捕獲した雄の尾に傷をしたものが多くみられるのは、縄張り争いの結果かもしれません。産卵直後の卵嚢近くで雄を見つけることが多いのは、その場所で縄張りをつくっているからです。
雄は他の個体に出会うと、吻端を相手に近づけ、雌のときには尾や体全体を硬直させたよう姿勢で、ピクピクと振動させる行動をします。この行動で雌は雄が近くにいることを判断していると考えられます。雄に刺激された雌は、植物の根や茎、枯れ枝、石などにしがみつき、総排出腔開口部をおしつけるようにしながら卵嚢の端(ゼリー状のもの)を付着させてから、身体を離していきます。卵嚢の端は産卵後しばらくの間だけ接着力があるので、接着された部分を支点にして、房になったバナナ状の卵嚢を対にした形で産卵します(写真5、6)。県南部では一卵嚢に直径2~3mmの卵が30~60個入っています。卵嚢の形や含まれる卵数については、地域によって差があり、岡山県上斎原村で産卵されたもの(写真7)では、15~30個、北九州市のもの(写真8)では、一卵嚢に80~120個の卵が入っています。
写真5.吸水して膨らむ前の卵嚢
写真6.産卵直後の卵嚢(玉野市)
写真7.カスミサンショウウオの卵嚢(上斎原村)
写真8.カスミサンショウウオの卵嚢(北九州市)
産卵が近くなると、雌の総排出腔付近から誘引物質(フェロモン)が分泌されるようで、雄の動きが急に激しくなり、誘引物質が付着した卵嚢を抱えるような姿勢で放精し、受精させます。産卵後10分程度で積極的に抱きつくような行動をしなくなるので、誘引物質が水溶性物質でできており、拡散して効果を失ってしまうと考えられます。産卵前の雌は、卵が卵巣から体腔に排出されているので、腹部をみると黒い卵の粒が見えるのに対して、産卵後の雌は痩せたような状態になっているので、産卵前か後かの区別ができます。雌は産卵を終えると陸上に上がっていきますが、雄はその場所に残って、次の繁殖の機会を待ちます。水中で雌をまっている期間はほとんど餌を採らないので、繁殖期の終わりには体重は減り、尾幅、頭幅がしだいに小さくなり、やがて繁殖場所を離れていきます。