性腺の分化がおわる頃の胎児は男女とも内性器は同じ形をしている。外部生殖原基へ開口するミュラー管とウオルフ管という2本の生殖管をもっている。男性では、精巣の分化にともなってウオルフ管が発達して、副葦丸や輸精管、貯精嚢に分化していくが、ミュラー管は退化して消失してしまう。一方、女性では、ウオルフ管が退化してミュラー管が残り、輸卵管、子宮、膣の一部へと分化していく。両方向へ発生を分岐させているものは胎児の精巣から分泌される2種類のホルモン(アンドロゲン・抗ミュラー管ホルモン)である。 外性器については、男女とも6週の終わりまでは未分化で、差はみられないが、4か月になると、外見から判断できるようになる。男性では、生殖結節という部分が急激に変化して陰茎ができる。女性の場合は、わずかに変化してクリトリスになる。『聖書』では、創世記で「男性のアダムの肋骨から女性のイブをつくった」と記載されているが、遺伝子・性腺・性器の仕組みを科学的に考察すると、「人間の原型は女性のイブ」ということになる。 また、内性器の分化は、ホルモンの作用が重要なので、うまく働かないと性器に異常が起こる。例えば、アンドロゲンの分泌は普通でも、抗ミュラー管ホルモンの分泌が十分でない場合は子宮をもった男性になったり、女性の胎児が母親の飲んだアンドロゲン作用のある薬の影響で外性器の男性化が起こったり、アンドロゲンが正常に分泌されていても、アンドロゲン受容体がない場合は、精巣があっても外性器は女性型になる場合もある。インターセックス(半陰陽)は、解剖学的に男女に判定できない中間型(生物学的に男女が両性の要素をもっている)で、卵巣と精巣を併せ持つ場合と卵巣あるいは精巣をもつ場合があり、染色体の性や外性器の性との混乱がある場合をいう。
性別については、スポーツ競技のセックス・チェックなどの特別な場合を除いて、一般的には出生時の外性器の形態で判断しているが、厳格に二形に区分できるものだろうか。これまで遺伝子レベル・性腺レベル・生器レベルで性決定をみてきたように、ヒトの場合は性分化の過程で男女どちらの性にもなる可能性を持っている。Y染色体上の精巣決定遺伝子が働くかどうか、精巣が分泌するホルモンが存在するか、そのホルモンの濃度や働き方がどうかによって内性器や外性器の分化の方向が大きく異なってくる。このようにみていくと、生物学的な視点でさえ男と女は完全に分離して区分されるものではなく、連続性をもったものと考えられる。