輪島塗の蒔絵の行程(器に漆を塗る)使う筆にクマネズミの毛を使ったものが使われてきたが、その材料の毛は、葦原のような自然の中で育ったクマネズミの毛しか使えない。自然環境の変化の影響を受け、平成元年頃からクマネズミの毛の入手が困難になり、筆がつくれなくなってきている。現代でも、クマネズミそのものは都会でも繁殖しているが、都会で生活しているコンクリートの間を走り回るために毛先の先端の「水毛」と言われる部分が痛んでいるため使えない。
参考(バックナンバー2002.10.28日本農業新聞から抜粋)
適当なネズミがいなくなって困っている話がある。漆器(しっき)の世界だ。漆(うるし)美の極致、蒔(まき)絵の線を引く蒔絵筆は、ネズミの毛で作る▼もちろん、ただのネズミではない。昔は、穀送船にいるネズミが最高とされていた。餌の米は食べ放題で丸々と太り、木造船だと毛を傷めることもない。その背中の中心部の強く長い毛が、粘り気の強い漆の線を引くのに最適だった▼今はそんな船もなく、ぴったりの船ネズミもいない。だから、琵琶湖周辺の湿地にすむクマネズミの毛を使っていたが、それもいなくなった。猫の毛で代用する因縁話めいた動きもあるが、しっくりいかず困り果てているという▼漆器は何度も漆を塗り重ねるが、漆を塗る刷毛(はけ)には髪の毛が適しているそうだ。しかも、日本人の三十代の女性の髪が、黒く直毛で腰が強く、油分が少なくて最適とか。この方はなくなりはしないが、脱色、染色が多くなると心配になるという▼縄文時代から受け継がれ、桃山時代から世界に紹介されてきた世界に誇る「日本美」について、漆芸作家の室瀬和美氏から教わった忍び寄る心配の数々である。