イモリについて
「イモリ」は、漢字で「井守」と書きますが、「井」が「井戸」や「水田」を表すことから、「井戸を守る」「水田を守る」の意味で名付けられたといわれてきました。井戸や水田付近で多くみることができたからその名がついたのでしょう。現在でもイモリは池や水田側溝、小川のゆるやかな流れの所、山地の湿地、といった水辺周辺で生息しています。体長(全長)は成体で雌が10~13cm、雄がやや小型で8~10cm。本州から九州まで広く分布していますが、日本固有種のアカハライモリの北限地である下北半島がイモリ科全体の北限にもなっています。岡山県では、県中部から北部にかけて多く分布しています。
アカハライモリの生活史
イモリ科の中で、岡山県に分布しているのはアカハライモリだけです。アカハライモリは、「アカハラ」といわれるように、腹部が赤いのが特徴です。この腹部の赤はイモリが毒を持っていることを外敵に伝える警戒色である、と考えられています。イモリは敵に襲われると皮膚からフグ毒(テトロドトキシン)と似た成分を含む粘液を分泌し、身を守ります。このように腹部は赤色をしていますが、赤色の色調や黒斑の模様は一匹一匹全く異なっています。雌雄は頭部と尾の形で区別できます。(写真1、2)。
写真1.アカハライモリの雄(上)と雌(下)
写真2.アカハライモリの尾(左:雄、右:雌)
アカハライモリの繁殖期は4月から6月で、この時期になると尾や胴の腹側周囲に紫白色の婚姻色があらわれ始め、、雄が雌を追う姿を見ることができます(写真3)。
写真3.4月から6月にかけて見られるアカハライモリの配偶行動
これはイモリの配偶行動です。たいていの場合、雌は雄を振り切るように泳ぎ去ってしまうのですが、気に入った相手がみつかると雌は泳ぐのをやめて立ち止まります。すると雄は吻端を雌の総排出腔付近に押し付けます(写真4)。
写真4.雌にすり寄るアカハライモリの雄
これは匂いによって相手が雌であることを確認していると考えられています。その後雄は、雌の進行方向で尾全体を折った形にして、尾の先端を細かく震わせるような動作をします。このとき雄は総排出腔から雌を誘引するフェロモン(ソデフリン)を分泌しているのです。雌が雄の求愛を受け入れれば、吻端で雄の頚部あたりを押します。その後雄は雌の前方を真直ぐに歩き始め、雌がその後ろを追尾し、雄が落とした精包(精子の塊)に総排出腔押し付けるようにして精包を取り込みます。雌の貯精嚢に保持された精子は、産卵時、受精に使用されます(写真5、6)。
写真5.アカハライモリ(雄)の精子
写真6.アカハライモリ(雌)の貯精嚢:内部に精子が見える
冬期の低温条件では貯精嚢で半年以上受精可能な状態に保持されています。同じ有尾類のサンショウウオ科やオオサンショウウオ科は体外受精ですが、このようにイモリ科は体内受精を行います。
産卵は繁殖期に何回かに分けて行いますが、雌は稲の葉などを後脚で折りたたみながら、葉の間に一個ずつ包み込むように卵を産み付けます(写真7、8)。
写真7.アカハライモリの卵
写真8.卵は一個ずつ包むように産み付けられている
一個の卵に入る精子は一個ではなく、多精受精です。水温20度で、約3週間たつと孵化します。幼生の外形は、無尾類のオタマジャクシとは異なり、外鰓が目立つ形をしています(写真9)。幼生は水中の無脊椎動物を食べて成長し、、8月から9月にかけて3~4cmの大きさで変態します(写真10)。変態後は、陸の上で生活しながら成体まで成熟するのに3年以上かかるといわれています。8月の気温の高い時期には、成体は湧水が流れ込む水溜まりや水管の中に隠れています。水田から水が落とされる9月から10月にかけては水路で多く見ることができます。この時期には、産卵はしないのですが配偶行動を観察することができます。
写真9.アカハライモリの幼生(外鰓をもつ)
写真10.アカハライモリの幼体
11月になって気温が下がると歩き回る姿は見られなくなり、12月から2月の寒い時期は朽木の下や枯葉が溜まった水路で過ごします。一般的には、冬眠しているといわれています。以前1月に岡山市内の朽木の下で見つけたものは、捕獲してもしばらく固まったように動かなかったので冬眠していたのかもしれません。しかし、県北部の水辺の生息環境が全て雪で覆われる地域では、積雪の下の泥のようになった溜まりの中で塊状になっているのを見つけることがあります。この場合、取り出すと泥の中から動き出してくるので冬眠しているといえるかどうかは定かではありません。