1999年11月20日(土)、倉敷市民会館で、生物部が「有尾類の観察と飼育」と題して、「清流を守る若者の集い」で発表した。
清心女子高等学校生物部部長挨拶
「清流を守る若者の集い」は、岡山振興局、倉敷振興局、井笠振興局という三つの管轄地域で行われている。倉敷では、本校生物部が実行委員会になって、倉敷振興局の担当者の方や川崎医大の佐藤國康先生など多く方々に協力していただきながら、計画しました。
カスミサンショウウオの保護を中心に発表
学校関係の発表は、総社東中学校科学部、清心中学校・清心女子高等学校生物部の発表がありました。写真は、本校生物部の山下が、「有尾類の飼育と観察」という題で、発表を行っている様子です。
【発表内容】 岡山県に棲む有尾類の紹介とこれまでの本校での取り組みを説明した。
はじめに
生物部は,生物同好会(1984年から)が発展し1997年に生物部になり,部活動として認定された。各部員は自分の興味を持ったテーマで自由に進めている。部として継続している主な活動は,生物教室内の動物飼育である。飼育動物は,岡山県内に生息する動物を中心としており,特に有尾類は,1989年から継続して10年以上飼育している。現在飼育している有尾類は,アカハライモリ,カスミサンショウウオ,ヒダサンショウウオ,ハコネサンショウウオである。今回の発表では,身近に生息していながら,よく知られていない有尾類のアカハライモリやサンショウウオについての,これまでの観察結果の一部を説明したい。
1.岡山県の有尾類
日本にすむ有尾類は,イモリ科,サンショウウオ科,オオサンショウウオ科であるが,岡山県に生息するのは,イモリ科ではアカハライモリ1種,サンショウオ科では,カスミサンショウウオ,ブチサンショウオ,ヒダサンショウウオ,ハコネサンショウウオの4種,オオサンショウウオ科ではオオサンショウウオ1種である。いずれも日本の固有種である。特にオオサンショウオは,両生類としては世界最大の種であり,1952年に国の特別天然記念物として指定されている。
オオサンショウウオは,県北部・標高300m以上の水温の低い吉井川などの主要河川の支流や山地の渓流に棲む。ブチサンショウウオ,ヒダサンショウウオ,ハコネサンショウウオの3種は県北部中国山地の標高500m以上の渓流に棲む。アカハライモリ,カスミサンショウウオの2種は,県南部から県北部まで,他種に比べて人里に近い地域に広く分布している。
2.身近な環境に棲む有尾類
(1) アカハライモリ
体長は,雄が8~9cm,雌が9~12cmである。体色は,背面が黒から黒褐色で,腹面は赤く,黒褐色の斑点が不規則に分布している。皮膚表面にざらざらした砂粒状の隆起がある。産卵は,春から初夏にかけて,一卵ずつ水草に産みつける。北海道を除く日本全土に分布し,岡山県下でも1955年頃までは平地,山地を問わず至る所の池や溝に棲んでいたが,現在では山奥の池などでしか見られなくなっている。
(2) カスミサンショウウオ
体長7~10cmで,雌の方がやや小さい。体色は,背面は黄褐色から暗褐色で,腹面は淡色である。皮膚表面は滑らかである。産卵は,1月から3月で,湧水が流れ込む水田側溝や,小さな溜まりの枯れ枝や石の下に,一対の卵嚢(40~70個の卵が入っている)を産みつける。人里に近い環境に生息するため,水路工事などの整備事業の影響を受けて,生息数が激減している。
カスミサンショウウオの成体
カスミサンショウウオの卵のう
ビニールに産み付けられた卵のう
湿地は埋め立てられ宅地に
(3) ヒダサンショウウオ
体長8~15cm。体色は暗褐色で,背面に黄色またはくすんだ橙色の斑紋がある。標高の高い森林の渓流付近に生息している。
ヒダサンショウウオの成体
(4) ハコネサンショウウオ
体長10~17cm。体色は暗褐色で,背面中央部に赤紅色または朱色の帯状斑紋が連なっている。斑紋は変異が多く,横帯や細かい斑点になっていたりする。標高の高い森林の渓流付近に生息している
3.10年間の飼育経験からわかったこと
カスミサンショウウオの飼育と放流これまでの約10年間の飼育経験から,カスミサンショウウオは幼生の時に,特に共食いが激しいことがわかった。餌が不足している時には,近づくものに機械的に反応して食いつくので,高密度で飼育すると,前肢や後肢,尾の一部を失った個体が多くなり,傷が原因で死亡する場合も出てくる。卵からの継続した飼育では,2年間で産卵ができるまでに成長する。ただ飼育下での産卵では,野外と比べて受精卵が正常に発生する率が低くなる傾向がある。幼生の時期まで飼育し,野外に放流して保護することを考えたが,運搬が長時間になると弱って死亡してしまったり,放流時の水温の違いなどで弱ったりする個体も多く,取り扱いが難しい。
4.採取の注意
有尾類は,一般に行動圏が狭く,また湿地という不安定な場所に生息している。したがって,捕獲が,その繁殖にダメージを与えることも考えられる。確認できる個体数が少ない場合は特に問題になる。カスミサンショウウオなどの小型サンショウウオの仲間は,1匹の雌が1シーズンに1対の卵嚢を産むだけなので,4つの卵嚢が確認された場合は,雌が2匹しかいないということになる。実験終了後の成体を元の場所に戻したり,残った胚を放すということも考えたい。有尾類の仲間は,行動圏が狭いことから,遺伝子の交流も少なく,地域に限定された特異性を持っている場合もある。捕獲した成体や幼生を捕獲地以外の地域にむやみに放流しないようにすることも必要である。
最後に
人と自然の関係の理解を深める取り組みが学校でも行われ始めた。社会問題にもなったダイオキシン問題をきっかけに,学校でもゴミ焼却場の廃止,ゴミの分別回収などが実施されるようになった。また,自然の大切さを体験する企画として,今年度の修学旅行から,自然・環境コースが設定され,大学の先生方の講義や,自然体験を中心にした取り組みが実施された。この旅行に参加して得たことは,ゴミの分別回収などの活動だけでは,規則を守らなければならないという動機でしかなかったのが,自然について体験をしながら学ぶことによって,なぜ守らなければならないのかという問題意識を持てるようになったことである。今回の報告で,身近に棲んでいながら,あまり知られることのないまま生息数を減少させている有尾類を知ることで,かけがえのない自然の大切さに気づいていただければと思う。
(参考文献)おかやまの自然・第2版(岡山県)1993,岡山県大百科事典(山陽新聞社)1980