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パソコンを使った「国際情報」と発展科目「生命」の授業実践

1999年8月 5日

第29回全国性教育研究大会要項p40-43(1999.8.7発表)
パソコンを使った「国際情報」と発展科目「生命」の授業実践
(情報収集を取り入れた性教育の総合的な学習)

清心中学校・清心女子高等学校 教諭 秋山繁治
                           
はじめに
1996年頃から、岡山県内の私学では校名変更・共学化、公立では11年度からの学区制の変更に先立っての教育課程変更などを含む「特色づくり」の試みが話題になるようになった。本校でも、独自に教育改革のためのプロジェクトチーム(1994年7月から1996年8月)を組織し、これまでの教育内容の再検討を行い、新学習指導要領の改定が告示される直前の1998年度から教育課程を大きく改定した。そして、コンピュータとインターネットを取り入れた授業「国際情報」と自由選択科目「発展科目」(高校の学習範囲を超えた内容を生徒自身が選んで学習する授業で、広範囲な内容を含んでいる)が誕生した。「コンピュータ導入は受験指導の邪魔になる」とか、「従来の教科の枠を超えた授業は冒険的過ぎる」という意見もあったが、新指導要領での「情報」と「総合的な時間」の誕生が追い風になり、1998年度から年次移行で実施されることが決定した。本報告では、授業「国際情報」と発展科目「生命」での、性教育に関わる授業実践について紹介したい。
 なお、本校は、カトリックの中高6年一貫教育の女子校である。1999年度の生徒数は、中学校が542名、高校が770名で、進路は、4年制大学が83%、短期大学が11%で専修学校を含めると97%が進学している。

1. 1998年から始まった授業「国際情報」はどのように展開されたか。
 授業「国際情報」はパソコンを利用した情報教育を行うべく誕生した。情報教育については、これからの教育課程を考える上で基本になる新学習指導要領でも、教育改革に向けて前向きに盛り込まれる方針がうかがえる。1998年11月18日に、中学校新指導要領改定案が発表されたが、E-Mailの利用まで含んだコンピュータの学習が「中学校技術・家庭科」に必須で盛り込まれ、また、高等学校でも、新しく「情報」(2単位必修)が新設される。
 本校では、「ほとんどが大学へ進学する生徒に対して、コンピュータを使った情報教育で何ができるか」という視点で考え、「1年間かけてホームページを完成させる」という作業過程で、関連内容を学習するということにした。課題として作るホームページは、公園や道路脇、街角にある野外彫刻についての調査結果を報告するものとした。インターネットを「単に直接体験を伴わない資料集め」の手段として使うだけでなく、自分の足で集める過程を大切にする意味で、写真撮影、作者や設置場所などのデータ収集と整理、という作業を組み込んだ。また、特に女性の裸像の設置については、それを猥褻、あるいは女性蔑視につながるという否定的な意見もあり、次のステップとして性教育の学習に結びつけることができると考えた。

2. 「発展科目」とは何か。
「発展科目」では、テーマ別に14講座(「中国語入門」・「英検・TOFEL講座」・「時事英語」・「アジア学入門」・「生命」・「人間とバランス」・「数学史」・「日本語」・「学園の母・マリア」・「コンピュータと数値計算」・「表現」・「創作版画実習」・「CREATIVE WRITING」・「現代社会と女性」)を設定している。講座は、前後期に分けられ、生徒の希望で選択履修できる。週2時間(連続)で実施している。
 どのようなテーマを設定するかについては、全教員に公募して、事前に高2・高3の生徒に、「実際は下級生が受講する講座だが、もし受講できるとすれば」ということで、アンケートに答えてもらった。その希望数と教育方針を考えて決定した。実際には、高校1年の2学期始めに発展科目の説明会が開かれ、シラバスを使って各担当者による説明があり、それを受けて、各自が受講科目を決定していった。

3. 講座「生命」はどのように進められているか。
 講座「生命」は、次のような医学、生物学、性教育、環境教育分野のテーマで、14回の授業(100分)で構成している。
・ 医学分野…「脳死」、「臓器移殖」、「骨髄移殖」
・ 生物学分野…「DNA」「分子生物学」「クローン」
・ 性教育分野…「出産」「エイズ」「野外彫刻(「国際情報で扱った内容のまとめ」)」
・ 環境教育分野…「学校内の植物観察」「岡山県の動物相」「沖縄の生物相(研修旅行との関連)」

4. 「野外彫刻は猥褻か否か」のテーマに生徒はどう答えるか。
 高校1年での「国際情報」では、生徒が自宅周辺や旅行先で野外彫刻を調査し、レポート作成、ホームページへ載せるところまでの作業を終えた。野外彫刻の調査を課題としたきっかけは、「野外彫刻の設置が猥褻、あるいは女性蔑視につながる」とする意見に対して、自らの調査過程を踏まえて、最終的に女子高校生としてどのような意見を持つか、私自分自身が知りたいという気持ちから計画した。そして、生徒の意見とは別の視点からの意見を得るために、講座「生命」の講師として、外部講師(彫刻家・女性フォーラム会員)に講演していただいた。最終的には、それらの材料から、生徒が自分自身で何らかのものを収穫してもらえることと信じている。従来の教科の枠にとらわれないこのような探求活動によって、日常的に何気なく見過ごしているものに目を向け、物事を探求的に考えていく姿勢を身に付けてくれることを願う。

5. 情報教育と性教育に共通性がある。
 インターネットを教育に利用する場合にいつも話題になるのは、「ポルノ、オカルト、暴力、ドラッグなどの有害情報から生徒を守るということ」と、「未熟な生徒がどんな情報を発信するか判らないので、情報発信を管理しなければならない」という視点である。「有害情報から守る」という視点では、フィルタリングの進歩してきた。そして、情報発信に対しては、ホームページを自由に書き換えさせないという方法で対応しているという話も聞く。しかしながら、セキュリティにも限界があるし、なかなか更新できない情報はすぐに色褪せてしまうのも事実である。生き生きとした教育活動に役立つためのコンピュータ、インターネットの利用はどうあるべきなのだろうか。
 本校のホームページを見た方から、次のようなメールをいただいた。「ところで...、性教育の部屋が『sexuality』となっておりますが、サーチロボットの自動検索にかかった場合、きわめて不愉快なジャンルに分類されるのではないかと、大きなお世話でしょうが心配しております。『ジェンダー』等にされておいた方がいかがかと思いますが・・。」という内容であった。性教育では、「sex」・「gender」・「sexsuality」の用語が明確に区別されて使われ、それぞれ教育的な意味をもっている。しかしながら、有害なアダルト向けの情報を制限するためのシステムでは、「sexuality」が「sex」(雌雄の意味ではなく、性交の意味)と同じ要素を持ったものと解釈されて、「不愉快なジャンル(=アダルト)」に分類されるかもしれないということである。同様に、「同性愛(Homosexuality)」という用語についても同じことが言える。同性愛の人権の問題を真面目に取り上げているページも、用語が同じである限り、興味本位で性情報を扱ったものと区別されずに、同じジャンルに分類される可能性がある。「有害情報を流さない」という教育的措置が話題になっているが、一方で、このような問題も起こりうる。また、さらに、生徒が情報発信する際には、子どもの権利条約の意見表明権や表現の自由を認める立場と情報を管理・制限する立場が衝突する場合も考えられる。
 情報教育では、常に新しい情報で学習内容を更新する必要がある。このような場合に、その目的が、一定の知識を与えることではありえない。臨機応変に対応できる学習姿勢、つまり、「どのように学ぶか」という、学び方を伝えることが中心になる。そして、その場合、生徒自身が「何を選択するかを自分で決定し、問題を解決する」という過程が重要である。これからの情報教育でのキーワードは「自己決定力の養成」であると思う。情報教育の目的は、情報手段を理解し、情報社会のモラルを身につけ、適切に活用して行くことが自分でできるように生徒を導くことである。このことは、今回の教育改革の中で進められている情報教育でも、性教育と共通の視点を必要としていることを意味する。

  • 投稿者 akiyama : 16:29

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