1985年3月に,日本最初のエイズ患者が厚生省によって認定された。同性愛者であった。実際には,1984年9月の段階で,帝京大学の血友病患者48名のうち23名がHIV陽性と判明していたが公表されなかった。日本以外の国でのHIVへの感染原因は,初期においては,同性愛者間の性的接触であり,今では異性間の性的接触による感染,薬物注射による感染が増大している状況にある。日本においても,異性間の性的接触による感染者が増えている。しかしながら,日本でのHIVへの感染原因としてもっとも多かったのは,血友病患者に治療のために投与された薬,つまり,アメリカから輸入された非加熱血液製剤によるものであった4)5)。日本独自の問題がそこにある。非加熱の血液製剤による犠牲者をうんだ原因が明らかに国及び製薬会社にあることが判明している。人為的に発生した薬害事件に中で,血友病患者,エイズ患者,HIV感染者に対する差別があった。血友病患者の実に約40%(約1800人)の感染が確認されている。その中には学齢期の子どもたちも含まれており,1989年の年齢で15才以下の子どもが144人も含まれている。諸外国では同性愛者に限られた病気として始まったのに対して,日本では血友病患者に限られた病気として始まったのである。
この薬害エイズ被害者が,国及び製薬会社五社を被告として,東京と大阪で損害賠償請求訴訟を提起したのが,HIV訴訟である。原告として高校生も製薬会社と国に対する責任を求めて法廷に立った6)。原告の病状の悪化は著しく,すでに多くの方々が亡くなられており,できるだけ早急に解決しなければならない重大な問題である。1995年10月に,東京地裁,大阪地裁から和解勧告が出され解決に向けて動きつつある。
エイズの問題を取り上げるとき,単に感染予防の知識だけ学習することを目指すのではなく,薬害事件として再びこのような悲劇が起こらないように社会的な側面からとりあげ学習することも重要である。
また、薬害エイズに関すて和解の道が開けつつあるが、薬害の被害者と性行為による感染者とを、「同情すべき感染者・患者」と「自業自得である感染者・患者」ととらえ差別する考え方がある。その捉え方は新たな差別をうむ可能性がある。どちらも死に直面した感染者・患者としてとらえ、その人権を守る配慮や人間の性に関わる問題を再考する場を教育現場として提供しなければならない。