ここまで,性教育に関わる状況を私自身の経緯を含めて説明してきた。私自身も,今勤務する学校で性教育に関わる以前は,性教育についてまったく知らなかったと言っていい状態であった。本校は女子校であり,私が勤める前から,性教育は行われていた。性教育が計画された当初は,熱心な教師により,教育課程全体の中でどのように位置づけるかが,討議され決定されたと聞いている。しかしながら,私が着任した時は,形骸化した印象を受けた。外部の人に講演を頼んだり,映画を鑑賞したりした後で,生徒の感想をまとめるというスタイルが定着していた。性教育委員会の責任者との相談で,ホームルーム担任が3年間に一度は直接,生徒の前で性教育を行う形にしようということで,最初は高2で実施した。実際のところ戸惑った教師もいたと思う。とにかく,ホームルーム単位での性教育の指導が始まった。
週に1時間あるロング・ホームルームという限られた枠の中で,性教育を実践することによって,生徒とのつながりを深め,充実した学校生活の一助としての役割を果たすことを期待した。そして,全教師が担任として実践する中で,性教育の必要性についての共通理解が生まれ,より深化した内容を扱える基盤をつくることができればと思った。
教育界全体でいえば,個人的に性教育を研究し,実践している教師は次第に増加してきている。そして,各性教育の研修会での発表例から理解できる。しかし,エイズや性教育の研究指定校などになったために実施している学校はあっても,自主的に学校独自に,学校全体として計画的・体系的に実践しているところはまだまだ少ない。
また,性教育については,計画されたLHRや各教科の授業だけでなく,色々な機会に展開することができる。部活動の中で実践される場合もある。1995年度の高校演劇の全国大会においては,エイズを題材とした作品が公開されたが,その作品の作成にあたっては,関連した知識,押さえておかなければならない人権の問題等についての検討があったであろう。準備する過程で,意識しようがしまいが,エイズについての学習があったし,エイズ患者についての人権の問題も学習したはずである。性について学習は,教育活動全般に及んでいるのである。
文化祭で,「結婚について」調べる企画をたてたらどうだろう。最初はおもしろ半分かもしれないが,生き方の問題が含まれてきた場合,その機会に教師もアドバイスとして,いくつかの学習のためのテーマを提供できるだろう。いろいろな機会に,性についての学習を深化させる機会がある。性教育を直接目的としない活動の中に,学習を深化し,統合させることができる機会がある。では,私自身がいままで取り組んできた例を報告したい。