学校現場の日常で生徒の性に関わる行動に,大きな影響を与える教育活動としては,どのようなものがあるのだろうか。各教科の授業,生徒指導,担任による面接など色々なことが考えられるが,たとえば,生徒手帳には,直接的に性に関わる行動を規制する記述が見られる。今回,「男女交際」についての記述の有無を生徒手帳で調べた。1993年の岡山県内の高等学校27校(公立高校15校・私立高校 12校)を調査した結果,21校の生徒手帳の中に「男女交際」について何らかの記載があった。具体的な規定は次のようなものである。
------------------
・不純な交友をすること(生徒心得・禁止事 項)
・交友関係は注意して選定を誤らないように し,特に男女間においては世人の誤解を招 かないようにする(生徒心得・校外)
・男女間の風紀を乱した者(生徒処罰指導規 定・本則)
・不純異性交遊(生徒心得・禁止事項)
・男女の交際は清潔であること(生徒心得)
・男女間の交際は,特に慎重な注意が必要で ある。明朗・清潔・淡々たる態度で行動し, 世間の話題にのぼったり,誤解を招くよう な こ とがあってはならない。そのためには 次の諸項を守る必要がある。
(1) 1対1の交際は望ましくない。(まし て男女2人で遠足や旅行をしたりするこ とは厳禁する。)
(2) 男女グループによる宿泊旅行は禁止す る。1日行程の遠足も教師か父母の同行 を要する。(生徒実践心得・交際)
・異性との交際については社会の誤解を招く ことがないようにし,仮にも不良交遊,不 純交遊のそしりを受けることがないように 注意しなければならない。(生徒心得・交 際)
・男女の交際は勉学中であることの自覚に立 ち,学校と家庭の適切な指導と理解を求めよう。したがってその交際は勉強と,お互 いの人格向上を中心とし,高校生らしくな い通信,品物の贈答,2人だけで興行物,キャンプ等に行ったり日没後の2人歩き等 はしないようにしよう。(健学の精神)
・不健全異性行為(本校生徒としての心得・ 寮生活について)
・男女の交際は友愛にもとづき,純真明朗で 節度を失しないようにしよう。(日常の生 活目標)
・お互いの人格を尊重し節度をわきまえた礼 儀正しい交際をしよう。
(1) 保護者の了解を受けた明朗な交際であ ることとする。
(2) 2人だけで旅行,興行物,ハイキング 等に行ったり,日没後の2人歩き等の行 動はつつしむ。(生徒心得・男女交際)
・不純異性交遊(生徒心得・禁止事項)
・男女間の交際は,健全で明るく,互いに人 格を高めあうものにしよう。(生徒心得・ 団体生活)
・交際を明朗にする。
(1) 男女両性の人間関係は民主社会におい てもっとも重要な問題である。
(2) 交際は特定の異性に限ることなく,ク ラスメートとして明朗に異性をみる能力 を養う。(生徒心得)
・男女交際はお互いに敬意をもち,高校生と しての良識にもとづいた正しい交際をする。 (生徒心得)
・男女間の交際は,公明正大で清潔な交際で なくてはならず,友情の域を脱しないこと。 (生徒心得・一般的留意事項)
・高校時代の男女交際は広く異性を理解し, 男女それぞれの立場と役割を自覚し,相互 の人間的成長を進めていくという意味で行 われるべきで,節度を保つこと。(生徒心 得・交友)
・不純異性交遊(生活基準・厳禁事項)
・男女の交際は,礼儀を守り節度を保つよう 自ら慎むこと。(生徒心得)
・公明でない男女の交際(生徒心得・禁止事 項)
・異性に対する交際はあくまで節度を守る。 (生徒心得・礼儀)
「男女交際」に関する規定の多くは,生徒心得という項目のなかにある。現在でも「不純異性交遊」という言葉が残っている学校があることがわかる。私が高校生であった1972年から1975年の時代にも,確かに「不純異性交遊」という言葉があった。その時でさえ,男女交際そのものを「不純なもの」として扱うことに不自然さを感じていた。確かに,「高校生として勉強する時期に,性に興味をもつべきではない」とか,「年齢的に社会生活を独立してやっていける状況ではない」とかいう意見があるだろう。しかし,そのことは,性行動そのものが「不純なもの」であることを意味するものではない。異性に関する興味がなければ,性行動もない。性行動がなければ人類としての生命存続もないのである。また,多くの人たちが,性に関わる感情や生活の場としての家庭に生き甲斐を見いだしながら生きている。だから,古来,詩や歌,小説のテーマとして描かれてきたのではないか。
確かに,社会生活へ適応していくことを考えると,青年期の性は指導し導かなければならない部分はあるかもしれないが,完全に否定されるものではない。生徒規則にあえて記述するならば,男女の協調や協力を志向した表現であるべきである。性の素晴らしさや今後の可能性に目を向けて欲しい。
現在の高等学校の生徒手帳の記述の中に,「不純異性交遊」という言葉は,20年前の男女交際に対するとらえ方をあらわしており,そのような言葉が生き続けているのは問題である。
生徒指導用語として「不純異性交遊」という言葉が長く使われてきたが,9年前の1986年にだされた文部省の『生徒指導における性に関する指導』からは,この表現は使われなくなった。また,警察用語としても,1989年から使われなくなっている。現在,補導関係の団体で一部使われている。
性教育は,現在の社会状況をふまえたものでなければならない。性はプライバシーをはじめとする個人の人権にかかわる部分が多い。生徒の日常生活を規制する生徒規則は,生徒個人の人権意識にも影響するものであり,性教育をはじめとするその他の教育活動にも影響する。
校則については,明文化されていても不合理になっていて運用されていない規定が存在していたり,人権教育の視点から見て改善すべき内容を含んでいる場合がある。改正する必要があるのは当然だが,教師(学校)側の都合によって一方的に改正するのではなく,教師と生徒の話し合いによって改正するという手続きを学ばせることも,民主的な社会を体験的に理解させることとして重要である。