1993年4月1日発行 『岡山県自然保護センターだより』に寄稿した「早春に産卵する両生類の仲間カスミサンショウウオ」から抜粋
サンショウウオといえば、オオサンショウウオが有名で、体も大きく、国の天然記念物しかも個体指定の特別指定天然記念物で、県北の渓流にすんでいます。これに比べて、ここにすんでいるカスミサンシヨウウオはイモリぐらいの大ささで、体長は7~11cm内外と小さく、山林の落葉の下などにすみ、色も地味であまり目立ちません。
しかし、れっきとした両生類有尾目の一員で、同じ小型のハコネサンシヨウウ才、プチサンショウウオ、ヒダサンショウウオとともに県下の自然が残る山林に接した水田や湿地に生活しています。ハコネサンショウウオ、プチサンショウウオ、ヒダサンショウウオの3種は県北の森林に生息していますが、カスミサンショウウ牙は県北部にはあまり数は多くはなく、吉備高原を中心に県中部から南部にかけて比較的多くみられます、
このカスミサンシヨウウオは、有尾類と呼ばれるように成体は尾をもち、水中ですごす幼生と変態して肺を生じた成体とは外形的によく似ています。いわば変態は外形的には不完全ともいえます。体の色は、黄褐色から暗褐色、背中に黒い斑点、体側に白い斑点がかすみ状にたくさんあるのが特徴です。普段は山地に行動範囲を持ち、昆虫、クモ、ミミズなどを捕らえて食べています。夜行性で、昼間は石や倒木、落葉の下へ潜んでいて、このため足元にいてもなかなかお目にかかれません。しかし、繁殖期の1月から3月には、その山林近くの湧水が流れ込む溜りや水田の脇溝に卵を産みに現れます。この時期に見られるのは多くが雄で、後からくる雌をじっと水中で待っています。産卵は水中で、カエルと同じ体外受精です。卵の入った1~3回巻いた長い紡錘形の一対の卵嚢を産みます。卵は、約3週間で船化し、外鰓をもった幼生は水中の小動物を食べて育ち、約3ケ月で変態して成体になり、陸上生活にはいります。
自然の残された場所で、多くの人に気つかれず、臆病に、やみくもに出歩くこともなく、鳴き声もたてず、ひっそりと生活をしているのです。一年中水溜りが乾燥しない湿地をもっとも好んですみます。このセンターでは、幼生が見つかりました
が、多くの地域で水田側溝がコンワリート化され、かつて分布していたところにだんだん姿を見せなくなっています。
わたしが勤めている学校の山沿の水路では、1989年1月にコンクリートの側溝で成体を確認したのを最後に、それ以来姿を見ることはなくなりました。岡山市でも毎年産卵が見られた場所が、側溝工事後の一昨年の卵を最後に、産卵が見られなくなりました。環境整備と自然保護はどちらも大切です。しかし両立は難しいものです。環境整備で生息地がゆがめられても、けなげに生きているカ
スミサンショウウオなどの小動物に対して、彼らが安心して産卵できる本来の自然を少しでも多く残すと共に彼らを優しく見守ってやりたいものです。