• ぼうぼうどりの生物教室
  • ぼうぼうどりの生物教室
  • ぼうぼうどりの生物教室
  • ぼうぼうどりの生物教室
  • ぼうぼうどりの生物教室
  • ぼうぼうどりの生物教室
  • ぼうぼうどりの生物教室
  • ぼうぼうどりの生物教室

fig03_01.JPG

2011年10月1日 Zoological Science 28:758-763
Akiyama.S, Iwao.Y., Miura.I : Evidence for True Fall-mating in Japanese Newts Cynops Pyrrhogaster
「日本産アカハライモリにおける秋交配の証明」の要旨

 アカハライモリは日本の固有種であり、本州、四国、九州および隠岐、壱岐、佐渡、五島および大隅群島に広く分布している。日本には3種類のイモリが生息しており、本土のアカハライモリに加え、奄美や沖縄にはシリケンイモリとイボイモリが分布している。我が国に生息する他の両生類はすべて体外受精を行うのに対し、イモリ類は、体内受精という異なる繁殖様式を備えている。アカハライモリの雄は繁殖期になると、尾の側面から腹側に掛けて紫色の婚姻色を呈し、雌の目の前で尾を振るわせて雌を誘った後、精包を放出する。雄に追随した雌はその精包を肛門から取り込み、肛門背側に多くの管状構造として存在する貯精のうに精子を蓄える。やがて成熟卵が輸卵管を通り、肛門を通過する際に貯精のうの精子と受精し、受精卵として体外に放出される。体外受精を行う両生類は交配時期と産卵時期がほぼ一致しているのに対し、イモリの雌は体内に精子を保存し、体内受精を行うため、交配が直接産卵を誘導しない。よって、交配時期はそのまま産卵時期を意味せず、交配後長い時間を経過したのち産卵が起こりうる。
アカハライモリでは、これまで春から初夏に掛けての2−3ヶ月が交配期であると考えられてきた。ところが、本研究者は秋にも、野外でたびたびイモリの交配行動を観察し、雄の婚姻食も確認した。ただし、雌の産卵は確認していない。一方、1931年には筒井が、1961年には岩澤が同様にイモリの交配行動を秋に観察しており、岩澤と石井(1990)は精巣の重量が9月−10月に最大になること、アンドロゲンの分泌が春と秋の2度、ピークに達することを明らかにしている。さらに浜口ら(2010)は、雄の脳におけるニューロステロイドの産生酵素遺伝子Cyp7Bの発現が秋に高まることから、秋における雄の交配行動を生理学的に支持している。このような背景から、アカハライモリでは交配が秋にも行われている可能性が十分に考えられる。一方、アメリカのイモリでも同様の秋交配が観察され調べられてきたが、雄の精子形成や雌の貯精のう内の精子の量は個体によって程度が異なことから、秋はあくまで偽繁殖期(false breeding season)であると解釈されている(Gergits and Jaeger, 1990; Sever et al., 1996; Sever, 1997)。
そこで本研究では、我が国のアカハライモリの交配が実際に秋に行われているのかどうかを明らかにするため、生殖腺や生殖器官の成熟の季節変化、雌の貯精のうにおける精子数の年周変化を調べた。さらに、秋に精子が雌に取り込まれるかどうか、その精子が春の産卵で実際に受精に使われるかどうかについて、DNA分子マーカーを用いて調べた。

 卵巣と輸卵管の重量について、体重に対する相対値を調べたところ、卵巣と輸卵管の重量はともに、繁殖後の7−8月の夏に最小となり、秋に向けて徐々に増えていた。卵巣内の卵母細胞を観察すると、7月には未熟な卵母細胞で占められたが、9月には徐々に成熟の進んだ褐色の細胞質をもつ卵母細胞が増え、3月には既に十分成熟した卵母細胞が多数観察された。輸卵管は5月にはゼリーが上皮細胞に蓄積し肥厚していたのに対し、9月にはゼリーが見られず、上皮細胞が整列して単層構造を示し、縮んだ状態にあった。
一方、精巣の重量は逆に10月から6月に掛けて低く、7月から上昇した。イモリの精巣は、精子が充満した部分と精子形成を行う部分の2つの領域に分かれており、精子が充満した部分の大きさは年を通じて変化しないが、精子形成を行う部分、つまり精原細胞から精子細胞を含む領域の大きさが変化を示した。よって、精巣重量の少ない時期には精子形成の領域が小さく、逆にこの時期には輸精管内の精子数が大幅に増えていた。一方、精巣の重量が大きい9月には精子形成領域が大きかったが、輸精管内では精子が少なく、8月にはほとんど見られない状態にあった。輸精管の精子数は12月から5月にもっとも多かったが、9月からは既に増えだしていることがわかった。
雌の貯精のうにおける精子数について、すべての貯精のう内の精子数を測定することは困難であるため、組織切片を観察した貯精のうの内、20%以上の貯精のうに精子が含まれている場合、20%未満の場合、なしの場合の3つのタイプに分けて調べた。その結果、繁殖後の8月と9月にもっとも少なく、10月から精子を含む貯精のうが大幅に増えている事がわかった。
以上の結果から、雌雄生殖腺の成熟は繁殖後の8月頃にもっとも低下すること、その後10月には最大まで達しないもののある程度の成熟度に達している事がわかった。そこで、12月に冬眠中の雌を野外から捕獲し、雄と接触させることなく3月に排卵を誘導したところ、使用した雌3個体すべてが受精卵(受精率70,73.3, 22.7%)を生んだ。これは、12月の雌は既に精子を取り込み、保持していたことを示している。一方、6月に産卵した雌をそのまま飼育し、秋に排卵させても受精卵は生まなかった。しかし、9月と11月に捕獲した雌2個体と4個体は12月にそれぞれ排卵誘導によって受精卵(受精率100%)を生んだ。このことは、春の精子は夏を越えて秋まで維持されないこと、そして、雌は秋に精子を取り込み、保持していることを示している。最後に、秋の精子が春の受精に使われている事を直接証明するために、岡山と大分の集団を使い、3月に捕獲した冬眠中の雌を別の集団の雄と一緒に飼育し、5月に自然産卵および人工排卵によって産卵を誘導した。岡山と大分の集団は、視物質遺伝子の塩基配列の違いに基づき、HincIIの制限酵素切断によってお互いのゲノムを識別することができる。岡山雌が自然産卵した8胚を調べたところ、2個体は岡山、6個体は雑種であった。さらに、人工排卵によって、岡山の雌6個体はすべて岡山の胚だけを生んだが、大分の雌1個体は大分の胚2個体と1個体の雑種、残り3個体の雌は合計35個体の雑種胚を生んだ。以上の結果から、精子は秋に取り込まれ、しかも春の精子と共に、春の受精に使われている事が直接に証明された。

 本研究は、日本に生息するアカハライモリの雌が秋に雄から精包を受け取り、春に新たに取り込んだ精子と共に春の受精に使用して産卵していることを明らかにした。したがって、これまで4月から6月、春から初夏までがアカハライモリの交配期(繁殖期)とされていたが、10月から6月までが真の交配期(繁殖期)となり、これまで知られていたよりも6ヶ月近くも長いことになる。ただし、冬は冬眠するため、実際には11月頃から3月までの期間は冬によって中断されている。では、日本の両生類の中で、なぜイモリだけがこのように長い交配期間をもつのだろうか。アカハライモリの属するCynopsには合計8種存在し、そのうち6種は中国のいずれも緯度が低い南部に生息している。従って、Cynops属イモリの起源は中国にあり、日本のアカハライモリは最も緯度の高いところに適応していることになる。中国のCynops属イモリの交配期はおよそ3月から7月と報告されており、アカハライモリの近縁種で奄美、沖縄に生息するシリケンイモリの交配期は1月から6月とされている。よって、日本に侵入して進化したCynopsは、繁殖期が冬の方へと伸長し、本土に分布を拡大しながらさらに秋まで交配期が伸長した可能性が考えられる。しかし、本土では寒い冬が存在するため、長い交配期が冬で遮断されたことになる。現在のところ、中国のCynopsにおける真の交配期が調べられていないので、詳しい推測は困難であり、中国のCynops自体がすでに長い交配期を備えている可能性も否定できない。今後の研究の進展が期待される。
本研究は、アカハライモリの交配期が秋にはすでに開始していることを明らかにした。これまで、日本の両生類では春を中心とした一続きの交配期が一般的に信じられてきたが、本研究は、秋に開始し、しかも冬期で一旦遮断され初夏まで続く長い交配期が存在することをイモリで証明した。これまでの常識を大きく覆す発見である。

  • 投稿者 akiyama : 12:00
朝日中高生新聞「最高峰の自由研究」に掲載
以下は、朝日新聞の記者のインタビューから引用です。 ●どんな研究をしたの?  アカハライモリの繁殖期とされていた時期とは異なる、「秋から初夏」という考えに着目し、「なぜ秋から配偶行動を取り始めるの か」という疑問をもとに、研究を始めました。その結果、多くのイモリ属は冬からを繁殖期としているところ、アカハライモリは世界分布で北限の日本の冬に適応するために秋の配偶行動を身につけたということがわかり、…続きを見る
高校生科学技術チャレンジJSEC2024でグランドアワード受賞
日本科学未来館で、第22回高校生科学技術チャレンジ(JSEC2014)の最終審査がありました。これは来年度の世界大会ISEFの選考審査にもなっています。404件の応募で、最終審査に35件が本選に進出し、12月7日8日の2日間のポスター発表による選考にのぞみました。本校の「日本のイモリ属の繁殖生態はどのように獲得されたか?」が最高位のグランドアワード3賞の一つ、科学技術政策担当大臣賞を受賞しました。…続きを見る
SSH生徒研究発表会でイモリの生態の研究成果を発表
8月7日、8日にSSH生徒研究発表会に学校代表として、高校1年から取り組んできた研究活動の集大成としてポスター発表に参加してきました。研究題目は、「日本のイモリ属(Cynops)の繁殖生態はどのように獲得されたか?」で、"イモリ属の繁殖生態は「配偶行動を取ってから連続して産卵する」のが基本であり、日本に生息するアカハライモリはイモリ属の分布の北限の種で、低温期(冬)があるという条件への環境適応とし…続きを見る
両生類研究の国際会議SalamanderMeeting2024で研究成果を発表
両生類研究の国際ミーティングは2年に1回で、前回はコロナ禍でトルコのIstanbul Medipol Universityで開催されましたが、今年の会場は日本で、国内唯一の両生類研究施設「両生類研究センター」のある広島大学の学士会館でした。実施要項を拝見して、高校生でも発表してもいいかを関係者に問い合わせさせていただいたところ、快く認めていただきました。口頭発表・ポスター発表ともすべて英語で、高…続きを見る
How was the breeding ecology of Japanese newts (Cynops) acquired ?
7月31日~8月2日まで、広島大学で Salamander Meeting 2024 が開催されます。山脇有尾類研究所でイモリ属の繁殖生態について研究している生徒がポスター発表(P-16)させていただきます。 Title How was the breeding ecology of Japanese newts (Cynops) acquired ? Cynops is a genus of…続きを見る
How was the breeding ecology of Japanese newts (<i>Cynops</i>) acquired ?
以下は、2024年8月1日の広島大学で開催されるSalamander Meetingでの発表要旨です。 Cynops is a genus of newts, with 11 species living in China and 2 species in Japan. In Japan, the red-bellied newts (Cynops Pyrrhogaster), and the …続きを見る
『はっけん!イモリ』発行
2022年8月1日に、日本のいきものビジュアルガイドの一冊として、緑書房から『はっけん!イモリ』が発行されます。写真は関慎太郎さんの撮影で、楽しい画像がいっぱい掲載されているので、楽しむことができます。 P140から144の「自由研究のすすめ①」で、「よく観察し、わいてくる疑問を大切にしよう」のページを執筆させていただきました。 …続きを見る
雪花が散る林でオオイタサンショウウオの産卵を観察
 2009年1月24日、九州はその年一番の寒波。大分県国東市での野外調査。午前10時、山際を散策していると林の中に水田跡の湿地があった。残雪の静かな林の中で、溜りの水面が波打っているのが見えた。近寄るとオオイタサンショウウオが群がって産卵をしている最中であった。これまで両生類は雨が降って、気温が上がったときに産卵する(洲脇,1978)と考えられていたので、サンショウウオの仲間が雪花舞う日中に産卵行…続きを見る
『生物の科学遺伝』9月号に「最も身近な有尾類アカハライモリの生態を探る」を執筆
同僚の先生が庭で採取したバナナ状の卵嚢一対を生物教室に持ち込んだのは,1989年3月のことだった。図鑑で調べた結果この卵嚢は、カスミサンショウウオ(2019年にセトウチサンショウウオとして記載)のものであるということが判明した。孵化後、無事に成長し、2年後には約10cm 程度に成長し、生物教室の水槽の中で産卵した。この水槽の中の様子に生徒も興味を持ち始めた。そこで、様々な有尾類を飼育しながら、発生…続きを見る
イモリ属の北限に生きるアカハライモリの繁殖戦略
アカハライモリは、これまで春から初夏に掛けての2-3ヶ月が繁殖期であると考えられてきた。ところが、秋にも、野外でたびたびイモリの交配行動を観察し、雄の婚姻食もが現れることも確認した。これまでの記録をみると、1931年には筒井が、1961年には岩澤が同様にイモリの交配行動を秋に観察しており、岩澤と石井(1990)は精巣の重量が9月~10月に最大になること、アンドロゲンの分泌が春と秋の2度、ピークに達…続きを見る
アカハライモリを教材として利用 ⑦まとめ
発生教材として、カエルの仲間がよく用いられるが、受精率と胚の観察のしやすさでは、イモリの方が優れていると考えられる。ヒトなどの哺乳類の初期発生は体内で進み、ニワトリなどの鳥類の発生は輸卵管と卵殻中で行われるのでたやすく観察できない。それに対して、イモリなどの両生類は、受精から孵化までの過程が、透明なゼリー中で進むので、初期発生からすべての段階を観察できる。受精卵の縛り方によって双頭の幼生や別々に分…続きを見る
アカハライモリを使った発生の観察 ⑥生徒へのアンケート
 生徒の自己評価をみると、「卵割からいろいろな器官に分化する過程が理解できた」、「発生の仕組みに興味をもった」がともに86%であり、学習の動機づけにはなったようだ。一方、技術的には、「実体顕微鏡の操作が身についた」が81%、卵の結紮は、「うまく縛れた」が62%と少なかった。しかしながら、生徒の感想に「今まで映像で見てきたイモリの胚を実際に見て,映像や写真通りに卵割の形が見られて,とても面白かった」…続きを見る
アカハライモリを教材として利用 ⑤授業の展開
授業は、①アカハライモリの特徴及び生態の理解(ビデオ教材を利用)、②初期胚の観察及びスケッチ、③各発生過程の理解(ビデオ教材を利用)、④胚の結紮実験の順に進めた。 ①については、雌雄の区別、春の繁殖期と冬の越冬期の野外での様子と繁殖行動を紹介した。積雪下の水田側溝で多数のイモリが群れているシーンや、配偶行動(配偶行動の後,雌が雄の産み落とした精包を貯精嚢に取り込む)を見て、貯精の仕組みや受精のさせ…続きを見る
アカハライモリを使った発生の観察 ④実験の準備
 産卵は、前述のゴナトロピン注射による産卵誘発でおこなった。繁殖期のイモリは貯精嚢(総排出腔付近の各細管)に精子を保持(貯精後6カ月以上受精可能)し、産卵時に体内で受精させる仕組みになっている。産卵時を発生のスタート(受精時)と考えて観察することができる。したがって、生徒に初期胚を観察させるには、第一卵割までに要する時間をさかのぼった時刻に産卵するように注射をしておけばよい。  注射したイモリを入…続きを見る
アカハライモリを教材として利用 ③アカハライモリを使った初期発生の観察
教材はアカハライモリを用いた。アカハライモリは、北海道・沖縄を除く広い範囲に分布し、比較的容易に入手できる代表的な有尾類の種である。「イモリ」という名は、「井守」と書くが、「井」が「井戸」や「水田」を表すことから、「井戸を守る」「水田を守る」を意味するといわれるように、池や水田側溝、小川のゆるやかな流れ、山地の湿地などに生息している。 体外受精で、透明なゼリーの中で孵化まで成長するので、各器官が形…続きを見る
アカハライモリを教材として利用 ②生物の発生過程を学ぶことが大切
小学校の実践で「一つの選ばれた精子が卵子(生物学では卵)と受精できる」という擬人的な表現をして、生命の尊厳を教える指導がよくなされている。実際、前述の中学校の教科書の「たった1つの精子だけが」という記載に、「選ばれた精子」というイメージを付随していることを感じる。私はまず、生命現象をきちんと科学的に理解させることが理科では重要だと考えている。高校では、生物の発生(受精卵から成体になる過程)の教材と…続きを見る
アカハライモリを教材として利用 ①はじめに
高校1年生の生物で「生殖と発生」を教える中で、「ヒトの受精はどこで起こるか」と生徒に質問したら、正解したのは29%だった。女性である生徒にとって自分の身体のことでもあるので、知っているだろうと期待していたが、そうではなかった。正解した生徒に情報源を聞くと、中学校の保健体育という答えが返ってきた。さっそく、中学校の保健体育の教科書を借りて調べてみると、「膣内に一度に射精される精子の量は、ふつう2~4…続きを見る
岡山県北部でアカハライモリ調査
もう20年以上アハハらイモリの調査に通っている岡山県北部の水田に出かけた。今回は、1年半前に退職した清心女子高校生命科学コースでアカハライモリのクローン作製目指しているグループの生徒が同行した。実験材料として使っているアカハライモリが自然の中でどのように生きているのか観察してもらうためだ。この季節の県北は新緑に包まれていて、それを眺めながらの調査は気持ちがいい。 …続きを見る
宮崎県でアカハライモリ探し
宮崎県の公立高校の先生方にSSH事業と課題研究の進め方について話させていただく機会をいただいたので、そのついで、先生方と宮崎県のアカハライモリの調査で出かけた。一日しか調査できなかったが、先生方に協力していただいて、この時期でもイモリを採取できる生息地を3箇所みつけることができた。 …続きを見る
1  2  3  4  5

このページの先頭へ