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山本宣治(やまもと せんじ/1889-1929)について

2025年12月15日

山本宣治は、イモリ研究で国際的評価を得た動物学者であると同時に、受胎調節(産児制限)・家族計画の思想を日本社会に広めようとした社会的実践者です。科学と社会を結びつけ、生命科学の知見を人間の幸福に生かそうとした点で、日本近代史においてきわめて特異で重要な人物です。

① 彼の生涯
1889年、京都府に生まれ、京都帝国大学理学部で動物学を学びました。有尾類(とくにイモリ)の生殖・発生研究で頭角を現し、大正期にはヨーロッパ(ドイツなど)へ留学しています。帰国後は、研究・教育と並行して社会問題にも積極的に発言しました。1929年、右翼団体の青年により暗殺され、39歳で生涯を閉じました。

② 科学者として
イモリの生殖生理、受精・発生過程、内分泌と生殖の関係などの分野で先駆的な研究を行いました。当時の日本では珍しい国際水準の実験動物学を展開し、その成果は海外でも高く評価されています。
有尾類の生殖・発生を通して生命を理解し、それを教育へとつなげるという研究の系譜において、山本宣治は、その理論的・実験的基盤を築いた最初期の研究者の一人と位置づけられます。

③ 受胎調節と家族計画思想との結びつき
考えの特異性は、実験室で得た生殖の知識を、社会の問題解決へと結びつけようとした点にあります。彼は、無知な多産が女性の健康を損ない、貧困を再生産し、子どもの教育機会を奪うと考えました。だからこそ、科学的知識にもとづく受胎調節(産児制限)が必要であると主張したのです。この考えは、当時としてはきわめて急進的なものでした。

④ 産児制限思想
産児制限論は、単なる人口抑制論ではありません。① 妊娠・出産を「国家の命令」ではなく、女性自身の選択として捉える女性の身体の尊重、② 迷信や道徳論ではなく、生理学・医学的知見にもとづく科学的合理性、③ 家族計画を個人の自由と民主社会の基礎と捉え、国家が「産め」と命じる社会を強く批判する民主主義との結合、という三つの柱をもっていました。

⑤ 弾圧と暗殺
当時の日本は、天皇制国家のもとで軍国主義が台頭し、「産めよ殖やせよ」という思想が強まりつつありました。山本は、議会での発言や講演、著作を通じて啓発活動を行い、国家主義と真正面から対峙しました。その結果、1929年、右翼青年によって暗殺されます。彼の死は、科学的理性が暴力によって押しつぶされた象徴的な事件として語り継がれています。

⑥ 教育的・現代的意義
彼の思想は、現代にも多くの示唆を与えています。生殖生物学と性教育の統合、女性のリプロダクティブ・ライツ、科学を社会に開く教育者の責任、生命科学と倫理の接点などは、現在の教育現場においても重要な課題です。
イモリ研究者として生命の仕組みを深く探究した科学者であると同時に、科学を人間の幸福に役立てようとした実践者でもありました。

⑦ まとめ
山本宣治は、「イモリの生殖を研究した科学者」であると同時に、「生命をどう生きるか」という問いを社会に投げかけた思想家でした。
私の有尾類研究・性教育・科学倫理を結びつける現在の取り組みは、山本宣治の未完の仕事を、現代的なかたちで引き継ぐ試みであると言えるかもしれません(自画自賛かな?)。

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