文部科学省のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)事業を展開して20年目を迎える岡山県倉敷市の「清心中学校・清心女子高等学校」(学校法人ノートルダム清心学園経営)は、2027年度以降の入学生から共学化することを発表した。新たな校名は「清心中学校・清心高等学校」となる。
創立以来、前身である私立岡山女学校の時代から約140年にわたり女子教育に尽力してきた同校は、「長い歴史の中で守り続けてきたカトリックの教えと精神をこれからの時代に引き継ぎ、より多くの若者に伝えるために、すべての生徒が性別に関わりなく等しく協働して学ぶ学校を目指す」としている。
ノートルダム清心学園の菊永茂司常務理事は、「受験人口の減少と共生志向の高まりに対応するため、9月26日の理事会で共学化を決定した」と会見で述べた。少子化の影響による入学者数の減少を受け、安定した生徒募集体制の確立を図るのが主な理由である。
岡山県内では過去20年間に、岡山市の就実中学校・高等学校、山陽女子中学校・高等学校が相次いで共学化しており、清心中学校・女子高等学校は県内唯一の女子校であった。現在、共学化に伴う各種申請の準備を進めており、2026年秋までに生徒募集要項をまとめる予定である。
筆者は1983年4月から2016年11月までの33年半にわたり同校に勤務し、2006年度から2015年度まで文科省SSH事業に主任として参画し、教育プログラムの開発を牽引した。第一期の研究開発課題は「生命科学コースの導入から出発する、女性の科学技術分野での活躍を支援できる女子校での教育モデルの構築」であり、今年度は第4期の5年目にあたる。
「2006年度文科省SSH事業で目指したもの」
岡山県内の私立高校は24校あるが、今や女子校は2校のみになってしまった。全国的にみると公立の伝統校と女子大に併設された学校、中高一貫進学校は残ってはいるが、今や女子校はマイノリティでしかない。男女共同参画を目指す社会で、共学校を標準とする時代に、女子校が存在する理由となるような役割はあるのだろうか。"男は仕事、女は家庭"という性別役割分業を支える男女別学教育では、現代社会のニーズには応えられない。女子校であり続ける新たな存在理由が求められる時代が到来している。
日本の合計特殊出生率は2005年に過去最低の1.26を記録した。少子化と高齢化が経済に大きな影響を与えている。原因の一つは女性が子どもを産まなくなったことだが、女性が子どもを産めば解決するような簡単な問題ではではない。ライフスタイルの変化やそれを支える社会サービス、医療技術の進歩など、原因は複雑に絡み合っているからである。ただ言えるのは、女性が社会構造に大きな変化を与えている時代になってきたということである。そして、それをネガティブにとらえるのではなく、女性の力を取り込んだ社会システムの構築が必要とされる時代になったと考えるべきである。これまでの「女性の才能を伸ばすことを制限している」「子どもを産み育てにくくしている」構造に風穴を開けるような変革が必要で、それを下支えする学校教育プログラムが必要とされている。
女子生徒の理系支援を旗印に、採択初年度から生命科学コースを立ち上げ、生徒の課題研究を支援するための教育プログラムを開発してきた。イベントとしては、2009年度から女子生徒だけによる発表会(本年度で第17回)、2020年度からは高校生両生類サミット(本年度で第6回)を開催し、今日に至っている。
共学化は時代の大きな流れの中で、ある程度やむを得ない面もある。しかし、私自身は女子校において、①女性のリーダーシップを育成すること、②多様性を認め合う「シェルター」としての教育の場をつくること、この二つの理念を柱として取り組んできた。
もし女子校をやめるのであれば、次なる教育課題を明確に掲げ、社会に新たな価値を提供できる学校として再出発してほしい。決して「生徒募集に困ったから」「他の女子校が共学化したから」といった消極的な理由での共学化であってはならない。今の社会において、学校教育に何が求められているのかを改めて考える時期に来ていると思う。