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私の科学教育に対する思い 「生命科学コース」開設の背景

2015年3月10日

私自身は、大学卒業時に研究を志すものの、経済的な理由で大学院進学をあきらめ、高等学校の教員として就職した。40才過ぎた頃休職して修士課程は修了したものの学位の取得は断念していた。そんな時、大学の先生から「研究できる環境がないなら、高校に研究できる環境をつくればいい」と紹介されたのがSSHだった。SSHは、生徒の科学研究だけでなく、教師である僕にも科学研究の機会を与えてくれたのだ。そして、SSH採択によって放課後コツコツと科学研究に取り組む行為が、職場(教育現場)で市民権を得ることができたことは、僕にとっての救いだった。教育現場では学習指導と生徒指導が中心、部活動でも体育系が中心で、物理・化学・生物等、いわゆる理科(科学)系の部は細々と存続していればいい方という状況だったからである。しかしSSHに取り組んで3年目の2008年に広島大学大学院理学研究科生物科学専攻に入学し、生徒の課題研究の指導の傍ら自分自身の研究を進め、3年後の2011年に博士(理学)を取得することができた。在職したままでの学位取得の過程での苦労は、論文作成指導だけでなく生徒への指導にいろいろな面で生かされていると実感している。
「生命科学コース」の開設から始めた今回の教育プログラム開発については、「数理科学課題研究」や「物質科学課題研究」を設定する前の段階では、SSH採択時のヒヤリングでも女子の理系進学支援が必要なのは「数学・物理・化学」分野であって「生物」分野ではないのではないかという疑問を投げかけられることが多かった。そんな中、私は「生命科学コース」の開設から始めたのである。その理由は次の3つである。①今から10年前は薬学部の新設などがあり、医学系・生物系を中心に女子の理系進学が激増した時期であったので、この機会をとらえて女子の理系進学機運を高めたかった。②科学技術者といえど生命科学に関連する「生命尊重」、「自然保護」などの社会的な問題についての理解が必要だと考えた。③生物(生命科学)分野は、高校生でも研究テーマを見つけやすいので科学の入り口になる。本校の運営指導委員の元日本物理学会会長の坂東昌子先生が、本校の生徒の発表を聞いて「物理・化学に比べて生物は多様で未知なことが多いので、高校生にはやりがいがあるだろう。意欲的に新しいことに取り組んでいるのに感心した」との意見を述べられた。そして私の身近には、生物部に物理教師がいたり、息子は高校物理部出身だが生命科学分野の博士課程に進学したりと、私自身も化学から生物科学に大学院で研究テーマを変えている。研究分野は、その人の心の底にどんなものに好奇心を持つかで決まってくると考えている。理科は「数学」「物理」「化学」「生物」に向かって基礎から応用へと複雑化していくが、縦割りに区別される「分野」ではなく、相互に関連し合いながら自然を紐解くためのツールになるものだと理解している。
学問や研究には正解もなければ範囲などというものもない。むしろ既存の正解と既存の範囲から逸脱するところから生まれる。学校で真面目に勉強をすれば不可避的に生ずる疑問や興味は、追求していくと教科書の範囲から逸脱することは避けられない。しかしながら、現在の入試による進学システムでは教科書の範囲を超えて勉強することは、不利になることはあっても有利になることはない。大学受験を意識した高校生は胸に抱えた疑問や興味を押し殺して、一定の範囲内の知識だけを完全に覚えることを要求されることになる。十代の最も頭の柔軟な時に、重箱の隅をつつくようなことをしなければならないのは辛いことである。だからといって「勉強なんてつまらない」と学問から離れていくのはあまりにももったいない。バーバラ・マクリントック(81歳でノーベル賞受賞)が、その人生を""知的な感動"で支えたように、高校を卒業していく生徒たちに、生命科学コースで体験した"知的な感動"を大切にして、前向きに学び続けて欲しいと思う。

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