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『受験の生物と非受験の生物学』

2013年6月 3日

高校生用の問題集に以下のような記載をみつけました。出版社(研数書院)に聞いても誰が書いたかわからないということです。この文章が書かれた当時と今の生物学の状況はどうちがうのでしょうか。受験生を取り巻く状況は変わっていないように思います。書かれてから15年の歳月が流れています。 以下は引用です。

『受験の生物と非受験の生物学』
 私が受験生をみていて最も気の毒に思う事は,勉強が苦しくて大変だなどということではさらさらなくて,試験の範囲があらかじめ決まっているということである。それでも個々の大学が個別に入試を行っていた頃は,たてまえ上は高校の教科書の範囲から出題することになってはいても,ほとんどの大学の教師は高校の教科書などは見ないだろうから,いきおい難問,奇問が出題されることになり,事態はまだしもよかったのだと言える。事態を決定的に悪くしたのは共通一次試験であって,そこでは高校の教科書から少しでも逸脱する問題は排除されてしまったのである。
 当然の事だが,学問には正解もなければ範囲などというものもない。むしろ既存の正解と既存の範囲から逸脱することだけが学問にとって意味あることのすべてなのである。諸君が真面目に高校の勉強をすれば不可避的に生ずる疑問や興味を追求すると,教科書の範囲からの逸脱は免がれ難くなる。しかし現在の受験体制では教科書の範囲を超えて勉強することは,大学入試に関する限り不利になることはあれ有利になることはないから,受験生は自分の疑問や興味を殺して,受験範囲内の知識だけを完全に覚えることに専念することになる。二十歳前の最も頭の柔軟な時に,重箱の隅をつつくようなことをしなければならないのは気の毒この上なく,あげくのはてに最近の若者は独創力が足りないなどと言われては立つ瀬がない。しかし私はともかくとして諸君がグチをこぼしてもはじまらないから,なんとか自分で工夫してつまらない受験勉強を切り抜ける以外にない。その際に留意することは,①受験勉強は「最小の努力で最大の効率」をモットーにムダな事はしてはならない,②受験勉強以外のことに①のセオリーをあてはめてはならない,特に学問には①のセオリーが全く成立しない,の二点である。この本は諸君の受験生物の勉強における①を手助けするためにあるが,首尾よく受験を切り抜けて,なおかつ非受験の生物学に興味をもつ方に,①のやり方では決して解けない現代生物学の難問を紹介して本書を閉じたいと思う。
 現代生物学がかかえている難問は,発生,進化,脳などである。免疫もかなりの難問であったが,多様性の発現機構についてはあらかた解けてしまった。進化は総合説(ネオダーウィニズム)という学説により表面的には解決されているかのようにみえるが,遺伝子と形との対応が未知な以上原理的には何もわかっていないと言うべきであるし,脳も機能と形態との対応が全くわかっていない。かくして全ての生物学上の難問は発生に秀斂してくることになる。通常の生物学者が考えているように,DNA→タンパク質→形質という図式だけでは化学反応の速度が遅すぎて発生の進行に追いつきそうにない。そこで①上の図式を超える構造(法則)をDNA自体が持っているのか,②細胞質の中にDNAとは異なる構造(法則)があるのか,③通常の自然科学の記述を超える新しい記述方法を考えてそれにより発生を記述するのか,の三つぐらいがさしあたってとり得る戦略になると思われる。諸君の中からこの難問を解く人が現れてこないものだろうか。
(研数書院 入試トレンディ生物重要問題集 1988年10月)

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