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2010・2011年度の課題研究に取り組んだ生徒のレポート

2012年4月29日

「花酵母の研究」に取り組んで
大橋慶子(清心女子高等学校・生命科学コース3年)

酵母について再認識する
私は今、3年間の高校生活を終えようとしている。そして、酵母の研究に取り組んだことで本当に充実した学校生活を過ごせたと感じている。私が学んだ清心女子高等学校は、文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されて6年目を迎えた学校で、入学時から将来の生命科学分野への進学を目的にした「生命科学コース」が設置されている。高校1年生では科学研究を進めていく上での基礎的な知識や技術を学ぶ「生命科学基礎」・「生命科学実習」、森林について学ぶ「蒜山研修」、英語の多読やディベートを取り入れた「実践英語」がある。そして、2年生で「生命科学課題研究」として生物工学・発生生物学・時間生物学・環境化学の分野から研究テーマを選び1年間取り組むことになる。その成果は、SSH生徒研究発表会、本校主催の「集まれ!理系女子科学研究発表交流会」、「様々な学会」など発表会や学会で発表することになっている。課題研究を最終的に発表できるレベルにまで完成させることを目指しているからだ。課題研究で「花酵母の研究」に真剣に取り組むことで、私自身、将来の進路や自らの適性について真剣に考えようになったと感じている。
私の課題研究の出発点は、1年生の時に福山大学生命工学部で受けた講義であった。今まで目を向けることのなかった微生物の存在を再認識し、人間生活に与えている恩恵、生態系の食物連鎖での役割に興味をもつようになった。そして、1年生3学期からクラスの仲間2人と一緒に、既に研究終盤を迎えた先輩方に具体的な研究内容、培地の作り方、野生酵母単離の基礎的な技術を教わった。おかげで私たちは、一足早く研究をスタートすることができた。

課題研究に取り組む
酵母の研究は常にコンタミとの戦いであった。滅菌が欠かせない。連続して進めなければならない作業が多いので、始業前・昼休み・放課後など空き時間を工夫しながら、効率的に計画を立てる必要があった。週2時間「生命科学課題研究」の時間が設定されているが、その時間だけでは研究を十分に進めることはできない。週末や夏休みなど実験に没頭できる時間を作り、仲間と共に研究に励んだ。
本校では2007年度から酵母の研究は始まっていた。いろいろな花から菌株を分離することはできていたが、酵母と判定できる種は少なく、アルコール発酵能やセルロース分解能を調べることはできていなかった。私たちはこれまでのデータから、酵母が得やすいと推定されたツツジを分離源に特定した。岡山県南部から北部までを縦断的に、また山陽自動車道のSAで岡山から山口まで横断的にツツジの花を採取した。花弁の中心部を脱脂綿で擦り取り、それを3種類の寒天培地へ撒き、増殖した各コロニーを植え替える作業を繰り返した。1日に約400枚のシャーレを観察したこともある。その結果、157菌株を単離することができた。

本当の意味での私たちの研究がスタートした
菌株の単離作業を終えた段階で、やっと本当の意味での研究の出発点に立ったといえる。2年生の1学期に分離株の細胞形態を観察し、次いでアルコール発酵能とセルロース分解能の有無を確認する実験に取り組んだ。アルコール発酵能の確認はなかなかできなかったが、これだけ多く菌株を採取できたのだから、その中にアルコール発酵をもつ菌株は必ずあると信じた。濃度や培養条件を変えながら実験を続け、冬休みも終わりに近づいた頃、いつも通りインキュベーターを開けると、試験管の底に沈んでいたチューブが浮かんでいた。CO2の発生が確認できたのだ。さらに、アルコール発酵能をもつ24菌株の中にセルロース分解能を併せ持つ菌株14株も確認できた。この14株はパルスフィールド電気泳動法で5種と同定し、また18SrDNA の塩基配列を解析した結果、パン酵母の仲間ではないことが判った。このような研究過程を通して達成感を味わうとともに、自然の(または研究の?)奥深さを知ることができた。

JSECへの参加
花酵母の研究については、2009年ジュニア農芸化学会で優秀賞を受賞した。しかし私たち自身の研究はSSH生徒研究発表会や日本生態学会、日本進化学会でポスター発表したものの、なかなか評価してもらえなかった。「賞が目的ではない」と言われても、研究自体が認められていないという気持ちになってしまい、とても悔しかった。そこで最後のチャンスと思い、高校3年生の9月に、高校生科学技術チャレンジ(JSEC)に挑戦することにした。最終審査まで進出し、高校生活の最後を飾る発表がしたいという気持ちで論文をまとめた。その結果、無事に最終審査に進み、協賛社賞として「アジレント・テクノロシー賞」をいただいた。

今後の展望
この研究は、「様々な花に生息する野生酵母を分離・採取し、分離菌株を同定することによって、『酵母』に分類される真核微生物とその生息する花、その花に飛来する昆虫との関係(生態系)について考察する」ことを目指して出発した。しかしながら、現時点では生態系について考察できるようなレベルにはなっていない。①菌株の分離、②性質の確認・同定と進めてきた研究を後輩たちに託したい。そして、いつの日か酵母の多様性と生態系の関係など自然系の理解につながる研究に発展してくれることを願っている。

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